EGFR阻害薬の皮膚障害ー治療

1. ざ瘡様皮疹
毛包や脂腺の細胞が強く障害されていて、似てはいるものの、ニキビそのものではないので、早期から炎症を抑えるために強めのステロイド外用剤を使用します。ニキビにはステロイド外用剤は禁忌なのですが、ここが治療の方針で一番異なる点です。出来るだけ早期に治療を始め、炎症を軽く抑え、瘢痕、色素沈着を避けることを目指します。
顔でもストロングからベリーストロングクラスのステロイド外用剤を使いますが、2~3週間後には離脱を図ります。長く使用するとステロイドざ瘡や酒さ様皮膚炎などの副作用が前面に出てくるためです。
Grade3以上の重症な場合にはステロイド剤(プレドニン10~20mg/日程度)内服も考慮されます。
毛包の角化抑制、脂腺の活動抑制効果を期待してアダパレン(ディフェリン)も併用し、これは炎症が収束してからも使用を継続します。
また皮疹がが高度であったり、躯幹などにも生じるなど広範囲である場合は、二次感染や好中球遊走抑制効果を期待してミノサイクリン100mg/日内服も行います。
2. 乾皮症
EGFR阻害薬によってエクリン汗腺や脂腺が障害され、発汗機能や皮膚バリア機能が障害されるために大なり小なり乾燥肌は出現してきます。1〜2ヶ月のうちに四肢を主体に乾皮症を生じ、痒みを伴い掻破痕を残したり、湿疹化してきます。初期から予防的にヘパリノイド軟膏や尿素クリーム、白色ワセリンなどの保湿剤を使用することによって症状が軽度になることが認められています。湿疹化したり、痒みが強い時はステロイド外用剤や抗ヒスタミン剤が適応になります。
ざ瘡様の皮疹が軽い時には脂漏性皮膚炎様の発疹を生じますが、この際も保湿剤あるいはケトコナゾール外用剤で様子をみます。
生活指導、皮膚障害予防の前提として、スキンケアが重要です。スキンケアの3原則は保清、保湿、保護の三保です。皮膚を清潔に保ち、皮膚に潤いを与え、紫外線や外的刺激を避けることが重要です。洗浄は必要ですが、強く擦ることは却って敏感になった皮膚に刺激を与え皮膚症状を悪化させます。
3. 爪囲炎、陥入爪
1〜2ヶ月後に生じてきます。通常の陥入爪と違って荷重部位でない指趾にも生じます。爪母、爪床、側爪郭の障害、角化異常がベースにあるので、微小な傷でも原因になりますし、再燃し易いです。これらの皮膚障害の中で最も治療に難渋しますし、患者さんのQOL(quality of life)を損ねます。浸出液が目立つようならば
、優しい洗浄やガーゼ保護などを行います。爪囲炎に対しては、ストロングクラスのステロイド外用剤を使用し、ミノサイクリンの内服も行います。二次感染が強いならば、セフェム系やニューキノロン系の抗生剤を併用します。陥入爪に対してはテーピング法、綿花やソフラチュールの爪下への挿入、アクリルガター法などを行います。
テープなどで押さえる後処置を行えば、くい込んだ爪をカットするのも実用的な方法とのことです。(清原先生による)
高度で難治性であればフェノール法などの外科処置も必要な場合もあるとのことです。
肉芽腫に対しては、液体窒素による凍結療法、電気焼灼、レーザー、ステロイド外用剤と圧迫療法などが行われています。

普段の生活指導やスキンケアなどの実践は医師のみでは困難で、治療に関わる薬剤師、看護師、理学療法士、家族などによるチーム医療、ケア、サポートが重要です。
分子標的薬の皮膚障害は抗癌効果が良好な例ほど重症になる傾向があり、薬剤の吸収率や血中濃度、組織内濃度によることがわかってきました。すなわち、皮膚障害を上手くコントロールしながら、抗癌治療を継続できれば患者さんにとって大きな治療効果を発揮できるということです。

参考文献

清原 祥夫:分子標的治療薬による皮膚障害.皮膚疾患最新の治療. 編集 瀧川 雅浩 渡辺 晋一 南江堂 2013-2014 pp25-29

松浦 浩徳:分子標的治療薬の皮膚症状とその対処法.皮膚科の臨床52(3);289~296,2010

磯田 憲一:分子標的薬皮膚障害対策2014.WHAT’S NEW in皮膚科2014-2015-Dermatology Year Book. 宮地 良樹 編 メディカルビュー社,2014 pp86-87

分子標的薬皮膚障害対策マニュアル2011 第62回日本皮膚科学会中部支部学術大会 三重大学医学部附属病院 皮膚科・薬剤部 発行