膠原病の指・爪 (3)

エリテマトーデス(紅斑性狼瘡, lupus erythematosus:LE)の中心に位置するともいえる全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus: SLE)はまた膠原病、全身性自己免疫疾患の代表的な疾患ともされています。様々な免疫異常を背景に多臓器を侵します。
その原因、発症要因は明確ではありませんが、遺伝的な素因が関係していることは確実なようです。その上に様々な環境要因があいまって自己に対する偏った免疫応答が惹起され、様々な組織障害が誘導されていくステップをとります。
免疫応答の異常ではT細胞の異常もありますが、近年はB細胞の異常がSLEの病態の中心であると考えられるようになってきたそうです。
SLEの診断は診断基準によって診断されますが、2012年には新しい分類基準(SLICC criteria:The Systemic Lupus International Collaborating Clinics)が提唱されました。
新しい分類は「急性及び慢性皮膚エリテマトーデス」として様々な皮疹が診断項目に組み込まれ、従来のものよりも皮疹や皮膚生検の重要性が高まったそうです。その分SLEに見られる多彩な皮膚の状態を的確に判断できる皮膚科医の需要、責任が高まったともいえます。
従来は1982年に制定された米国リウマチ学会(ACR)のSLE分類基準が改定され、広く使用されてきましたが、そこでは1)顔面紅斑と光線過敏の重複がある 2)特徴的な皮膚症状が入っていない 3)重要な神経所見が少ない 4)低補体血症が入っていない などの問題点もあったそうです。これらを勘案して作られた新しい分類基準では診断感受性が大きく向上したそうです。
LEはバリエーションが大きく、全身型のSLEから中間型LE(intermediate LE: ILE)、皮膚限局型LE(cutaneous-limited: CLE)まであり軽症から重症まで幅広くあります。

SLEの全体像を書くのは手に余りますし膨大になりますので、ここではLEの皮疹についてのみ触れますが、それについてもはなはだ多彩で、LEにのみみられる特異的皮疹と他疾患でもみられる非特異的皮疹を合わせると30種類以上もあるとのことです。
そこでLEの皮疹を特異疹を主体に調べてみました。

【特異的皮疹】
多くは蛍光抗体法で表皮基底膜部にIgGなどの免疫グロブリンや補体C3などの沈着がみられます。(ループスバンドテスト陽性)
<急性型皮疹>
◆蝶形紅斑・・・SLEで最も代表的な重要な皮疹で、SLE患者の50~70%にみられ、約20%が初発症状として出現するとされます。鼻背をまたいで両方の頬に蝶が羽を広げたような形で赤みがび慢性に拡がるタイプと、小型の紅斑が多数その部位にあって、全体として蝶形にみえる場合があります。日光曝露後に発症することが多いようです。急性期には浮腫性紅斑ですが、次第に鱗屑を伴うようになります。
皮膚筋炎でも同様な皮疹をみますが、境界は不鮮明な浮腫性の紅斑のことが多く、また脂漏性皮膚炎に似て鼻唇溝にも紅斑をみることもあります。SLEではその部位より下方を避けることが特徴とされます。
◆特殊型皮疹・・・結節性皮膚ループスムチン症、水疱性LE型皮疹、血管炎型皮疹
<亜急性型皮疹>
◆SCLE(subacute cutaneous LE)・・・1979年にSontheimerらが新しいLEの亜型として提唱しました。環状紅斑と丘疹鱗屑性皮疹があります。環状紅斑はシェーグレン症候群(SjS型環状紅斑)や新生児のLEでも見られますが、SjSでは表皮の変化がより少なく、SCLEではやや鱗屑を付しているようです。上肢や上半身の露光部に多く、白人女性に多いそうです(男女比 1:9)。日本人ではSjS型が多いそうです。抗SS-A抗体と密接に関連しているといわれます。
丘疹鱗屑型の皮疹では乾癬に似た紅斑落屑性の皮疹をとります。
慢性型の皮疹程浸潤がなく、角栓は認めません。皮疹は軽い萎縮と色素脱失を残すそうです。
<慢性型皮疹>
◆DLE(discoid LE)型皮疹・・・円板状エリテマトーデスの皮疹は境界が明瞭な円形~楕円形の紅斑局面を呈します。貨幣大までのものが多いです。初期は隆起性浮腫性紅斑ですが、次第に表面に角化性鱗屑や角栓ができ、さらに中心部は萎縮していき色素沈着、脱失を残します。辺縁部は赤み、褐色調が強く融合して地図状になってきます。顔面、頭部、耳、手背などの露光部に生じることが多いですが、躯幹、四肢にも多発する播種状型(wide spread DLE)もあります。
通常DLE型皮疹を持つCLEがSLEに移行する確率はごくわずかですが、SLEには全てのタイプの皮疹が現れる可能性があります。
◆凍瘡状LE型皮疹(chilblain lupus)・・・寒冷によって悪化するDLE型皮疹の亜型です。手指に凍瘡様の紅斑とDLE様皮疹をみます。ILEから軽症のSLEのことが多いそうです。
◆深在性LE型皮疹(lupus erythematosus profundus)・・・ループス脂肪織炎(lupus panniculitis)ともいいます。皮下脂肪織に非特異的な炎症を生じます。20~60歳代の女性に多く、顔面(頬部が多い)、頭部、四肢、臀部などに好発します。皮膚色から赤褐色の皮下硬結を生じ、最終的には陥凹した局面を残します。石灰化や潰瘍を生じることもあります。
SLE,ILEに伴うこともあります。治療はいかに瘢痕などの醜形を残さないようにするかが肝要です。
【非特異的皮疹】
多くは血管・循環障害に関連のある発疹で、SLEの早期診断の補助になりますが、他の疾患でもみられるもので、除外診断など慎重な判断が必要です。
慢性型では通常みられないのでSLEに適合するかどうか他の所見とあわせて診断します。
<手指の皮疹>
・Raynaud現象・・・強皮症で高率にみられますが、皮膚筋炎、SLEでもみられます。
・凍瘡様紅斑・・・しばしばSLEやシェーグレン症候群の初発症状としてみられます。
春を過ぎても持続するしもやけ様の紅斑は注意を要します。
・爪囲紅斑、・・・皮膚筋炎で最も高率にみられます。強皮症でもみられますが、この両者では爪上皮の出血点(nail folod bleeding:NFB)がみられます。SLEでは稀とされます。
・肢端壊疽・・・血流障害が高度になれば生じます。強皮症で最も問題になりますが、SLEでも生じます。ただし、血管炎や閉塞性動脈硬化症、関節リウマチ、糖尿病など種々の疾患でも生じますので鑑別が必要です。
<手指以外の皮疹>
・リベド(網状皮斑)・・・真皮、皮下脂肪織境界部の動脈性血流障害を反映して生じます。血管炎、循環障害(抗リン脂質抗体症候群など)
・皮膚潰瘍・・・SLEで上記のリベドや皮膚潰瘍、白色皮膚萎縮がみられた場合は抗リン脂質抗体症候群を考えて動脈の血栓症、動脈閉塞による症状をチェックする必要性があります。
・紫斑・・・いずれの膠原病でも生じることがあります。

このようにみてきますと、手指の発疹のみでSLEの全体像を判断するのは無理がありますが、早期診断や急性増悪の指標として、重要な役割を持っているように思われます。

病勢の増悪時の皮疹は、口腔潰瘍、蝶形紅斑、水疱、血栓、血管炎に伴う症状(紫斑、潰瘍、皮下結節、リベドなど)などとされます。顔面、手の皮疹は外来診察の短い時間でもチェックできます。
何よりも特別な機器を用いず、侵襲的な検査も行わないで、経時的な観察ができるのは有利な点と思われます。

参考文献

Visual Dermatology Vol.8 No.10 2009 手と顔から見つける膠原病 責任編集 佐藤伸一

皮膚科臨床アセット 7 皮膚科膠原病診療のすべて 総編集◎古江増隆 専門編集◎佐藤伸一
中山書店 2011

東 禹彦: 爪 基礎から臨床まで. 金原出版 第1版第7刷 2013

茂木精一郎. 膠原病update 新しい診断基準 日皮会誌:124(13),2603-2607,2014

蝶形紅斑 蝶形紅斑

爪囲 爪囲軽度紅斑

紅斑 指腹軽度紫紅色斑

蝶形紅斑2 紅斑が集まって全体として蝶形紅斑

足 足趾の紫斑

DLE 丘疹鱗屑型~DLE型(?)

随分前に経験した例で水疱を多発したSLEの患者さんですが、どこを探してもカラー写真が見当たりません.白黒ですが参考までに載せました.

水疱 初診1年前に手掌、足底に紅斑、2~3か月前に蝶形紅斑、口腔内潰瘍、脱毛.妊娠を契機に悪化.顔は全体に紅斑、色素沈着.口囲には紅斑落屑と糜爛.四肢手掌足底には滲出性紅斑があり、四肢では水疱を形成.
LE陽性.抗核抗体1024倍.抗ENA抗体40960倍.STS(-).C3,C4低値.
膠原病内科に転科してプレドニン80mg/日より治療、漸減して軽快.

水疱組織 耳前部の組織.表皮下水疱.液状変性あり、蛍光抗体直接法ではIgGの表皮真皮境界部への沈着あり.(ループスバンドテスト陽性)

腎臓 腎臓糸球体に微小変化.メサンギウムにIgG,M,Aが軽度に陽性.血管炎、尿細管の変化なし.