膠原病の指・爪 (2)

【皮膚筋炎】
皮膚筋炎は、主に近位の骨格筋が対称的に侵される原因不明の炎症性疾患で、特徴的かつ様々な皮膚症状を伴います。遺伝的、体質的なベースの上にウイルス感染、自己免疫、内臓悪性腫瘍、感染アレルギーなどが相俟って発症すると考えられています。皮膚筋炎は多発性筋炎とともに様々な筋外病変を伴い、全身性炎症性疾患で、しばしば悪性腫瘍や間質性肺炎などを伴う疾患群で、特発性炎症性ミオパチーの中に含まれています。
その多彩な病型より種々の診断基準が提唱されています。
1975年にBohanとPeterが提唱した診断基準が使われてきました。また1992年には厚生省の研究班がこの診断基準に4項目を加えた9項目からなる診断基準を作成しました。しかしこれらは基本的に筋炎があることが前提であり、近年明らかになってきた筋炎のない(未だ明らかでない)皮膚筋炎は診断から除外されることになってしまいます。また近年同定された抗ARS抗体、抗Mi-2抗体など筋炎特異自己抗体や骨格筋のMRI検査所見が入っていないなど実情にそぐわない点もあります。
最近ではIMCCP(International Myositis Classification Criteria Project)による新たな診断基準案が提唱されてきて診断特異度も上がってきています。この中には皮膚症状の項目も入っていますが、皮膚症状のリスクファクターは高スコアとなっています。(ヘリオトロープ疹 3.3、ゴットロン丘疹 2.3、ゴットロン徴候 3.4)
またClassification Treeではヘリオトロープ疹、メカニックハンドがあれば即診断確定となっています。
皮膚筋炎全般については以前ブログにも書きましたので、皮膚症状特に手指の皮疹に重点をおいて調べて書いてみたいと思います。
【皮膚症状】
《特異度の高い皮疹》
◆ヘリオトロープ疹(heliotrope rash)・・・ヘリオトロープというのは薄紫の花ですが、それに似た色の浮腫性の紅斑が眼瞼周囲、特に上眼瞼部に生じます。皮膚筋炎に特異的ですが、30~50%程度にしかみられません。また出現しても病勢が落ち着くと消退するそうです。黄色人種である日本人はどちらかというと褐色調がかって、赤褐色ないし暗赤色のことが多いようです。それに、ヘリオトロープ疹と鑑別を要する皮膚疾患は接触皮膚炎(かぶれ)を始め、多数ありますので診断には慎重さを要します。丹毒、肉芽腫、リンパ腫、Sweet病などなど・・・。
◆Gottron徴候、Gottron丘疹・・・手指関節背面にみられる紫紅色の角化性紅斑をGottron徴候とよび、丘疹をGottron丘疹とよびます。肘や膝にも同様の変化がみられることがあり、これも広義の意味で同様によばれます。先に述べたように
IMCCPでは重要なリスクファクターとして挙げられています。
逆に手指の内側に同様の角化性の紅斑がみられることがあり、逆Gottron徴候とよばれます。
◆機械工の手(mechanic’s hand)・・・拇指の尺側、第2,3指の橈側に紅斑落屑、亀裂、色素沈着を伴う角化性の皮疹がみられます。皮膚筋炎に特異的にみられ、IMCCPの診断基準案ではヘリオトロープ疹、機械工の手があれば、診断確定とするなど重要性の高い皮疹とされます。ただし、手湿疹などにも似るために慎重な診断が必要です。
これらは機械的な刺激(Köbner現象)が原因になっていると考えられています。
また、この症状は抗ARS抗体症候群といって、間質性肺炎を高率に発生する一群に多くみられるとされます。(しかし必ずしも高率ではありません。)
《しばしばみられる皮疹》
◆爪囲の紅斑、爪上皮の出血点・・・爪囲紅斑、爪上皮出血点(Nail Fold Bleeding: NFB)は近位爪郭から側爪郭部にみられ、末梢循環障害を反映していると考えられています。爪囲紅斑は皮膚筋炎だけではなく、全身性強皮症、エリテマトーデス(SLE)、混合性結合織病(Mixed Connective tssue Disease: MCTD)でもみられます。しかし、爪囲紅斑は皮膚筋炎で最も高頻度にみられます。NFBは全身性強皮症に高頻度にみられるので、これのみでは強皮症との鑑別は困難ですが、他の皮膚症状と合わせると重要な皮膚症状です。しかも皮膚筋炎では病勢を反映するそうで、治療効果の判定や臓器障害の見極めにも役立つそうです。
◆顔面の紅斑・・・様々なタイプの赤みがでます。ヘリオトロープ疹もその一つです。
小児ではSLE(紅斑性狼瘡)に似た蝶型紅斑を示します。顔面全体、特に額、頬、耳前、頚部に浮腫性の紅斑を生じます。時には脂漏性皮膚炎に似た紅斑を頭部、鼻翼部に生じます。露光部(顔面、Vネック、手背など)に皮疹が強く光線過敏症を思わせることもありますが、MEDなどの検査では正常のことが多いそうです。
◆体幹の皮疹・・・頭部から頚、肩、上背部に痒みの強い浮腫性紅斑が生じ、時に中毒疹様に全体に拡大します。肩から上背部のものはショールを掛けたような形にみえるのでショールサインとよばれます。Vネックの紅斑はVネックサインとよばれます。
かゆみのために掻破して線状の紅斑がみられ、鞭打ち様皮膚炎(flagellate erythema)とよばれます。また不整形の紅斑がみられることがあります。これらの紅斑は次第に色素沈着・脱失、萎縮、、落屑、毛細血管拡張などを伴って多型皮膚萎縮(ポイキロデルマ)という状態を呈するようになっていきます。
◆その他の皮疹・・・皮膚筋炎ではその他にも多彩な皮膚症状がみられます。
網状皮斑、石灰沈着、脂肪織炎、皮膚潰瘍、水疱、紫斑、脱毛など

上記の皮疹が全てみられるわけではありませんが、いくつかの特徴的な皮疹がみられれば、診断が確定します。
皮膚筋炎全般については以前当ブログに記載しましたので参考にしてください。(2014年3月~4月)

参考文献

皮膚科臨床アセット 7 皮膚科膠原病診療のすべて 総編集◎古江増隆 専門編集◎佐藤伸一 中山書店 2011

Visual Dermatology Vol.8 No.10 2009 手と顔から見つける膠原病 責任編集 佐藤伸一

東 禹彦: 爪 基礎から臨床まで. 金原出版 第1版第7刷 2013

茂木精一郎. 膠原病update 新しい診断基準 日皮会誌:124(13),2603-2607,2014

Luc Thomas, Myriam Vaudaine, Ximena Wortsman, Gregor B.E. Jemic and Jean-Luc Drapé. Imaging the Nail Unit. Baran and Dawber’s Diseases of the Nails and their Management, Fourth Edition. Edited by Robert Baran, David A.R.de Berker, Mark Holzberg and Luc Thomas.2012 John Wiley and Sons,Ltd. p101-182

Vネック Vネックサイン

ショールサイン ショールサイン

線状皮膚炎 鞭打ち様皮膚炎、しいたけ皮膚炎と酷似した皮疹で、初診時はしいたけ皮膚炎による中毒疹と診断したほどです(実際にしいたけを食べていました。)このような皮疹に対して日本ではscratch dermatitisという言葉の方がよく使われます。ブレオマイシン、ペプレオマイシンなどの薬剤でもみられますが、紅斑、丘疹よりも色素沈着が主体とされます。

爪囲紅斑 爪囲紅斑、爪上皮出血(NFB). 特にNFBは皮膚筋炎の診断に重要とされます.

爪下出血 同部のダーモスコピー.この患者さんでは、ヘリオトロープ疹、Gottron徴候は見られず、顔面は脂漏性皮膚炎様でした.
急激に発症したもので、筋炎症状はみられず、肝酵素の上昇もなし、