緑色爪

緑膿菌による爪の感染症によって生じます。
緑膿菌は鞭毛を有するグラム陰性桿菌で、ある種のものは青い色素(pyocyanin)を持ち、またある種のものは水溶性の黄緑色の色素(fluorescein)を持っているので、創部のガーゼは青緑色を呈します。(1882年に患者創部のガーゼから始めて分離されました。)
緑膿菌は一般的には消化管や湿潤な自然環境中に広く存在しているものの、普段は病変をおこしません。ただ、皮膚が湿潤環境になって蒸れたり、外傷、熱傷、褥瘡などで潰瘍を形成したりすると増殖し症状を呈してきます。また後で述べるように、免疫不全や栄養状態が悪い場合や癌患者などでは、重篤な全身感染症を引き起こし、致死的ともなります。いわゆる日和見感染症として院内感染を引き起こす重要な細菌でもあります。
【緑色爪】
爪の緑膿菌の感染によって、爪が緑色に変色してくるので、診断は比較的に容易です。水仕事をする女性に多く、ほとんどが爪カンジダ症、あるいは爪白癬症などを伴っています。時に爪囲炎を伴い、圧痛があります。Wood灯での蛍光発色は診断の手助けになります。
治療は局所を乾燥させること、また随伴するカンジダ症を治療することです。東先生によると、緑膿菌に対する抗生剤を使用しなくても、病変部の爪を短く切って乾燥させ、抗真菌剤でカンジダの治療を行えば治癒させることができるとのことです。
【毛包炎】
プールやホットタブの後、躯幹など水着が擦れる部分にかゆみを伴う紅色丘疹や膿疱を生じます。大部分は自然治癒しますが、時に外耳炎や乳腺炎などを併発することがあります。
【外耳炎】
swimmer’s earと呼ばれるように水泳後に湿潤したままでいると、外耳炎を生じ、耳介や耳軟骨にも腫脹が拡大してきます。高齢者や免疫不全の患者などでは軟骨や骨にまで進展し第7神経更には第9,11神経障害なども引き起こし重篤になることもあります。
【皮膚潰瘍】
湿った環境に長時間晒された足趾間の傷、熱傷の潰瘍、外傷などの表面にも緑膿菌がみられることがよくありますが、全身状態に問題がなく、デブリードマン(壊死組織を掻把し、取り除くこと)を行い、シルバーサルファダイアジン(ゲーベンクリーム)、ゲンタマイシンなどの抗菌剤を外用すれば治癒に持っていけます。
【菌血症】
悪性腫瘍、血液疾患、糖尿病、ステロイドなど薬剤使用などで免疫不全状態にあると、重篤な全身の感染症に発展していきます。グラム陰性桿菌は細胞壁成分にリポポリサッカライド(LPS:エンドトキシン)を持っていて、菌が一旦血中に入るとエンドトキシンショックを引き起こし、致死率は極めて高くなります。腸管症状を起こすと高熱と下痢を伴い、チフス様症状を呈します。
皮膚症状としては4つのタイプがあるそうです。
1.水疱・・・単独または集簇して生じます。血疱となり破れることもあります。小児では周りが赤くなって、多形紅斑ににることもあるそうです。
2.壊疽性膿瘡・・・紅斑、丘疹から水疱、血疱となり、破れて潰瘍、壊死組織となります。黒い痂疲をつけて周りを紅斑が取り囲みます。
3.壊死性蜂窩織炎・・・一見褥瘡に似た症状を呈することがありますが、褥瘡ができるような圧迫部分とは異なります。
4.紅斑、紅色丘疹・・・躯幹に生じ、チフスの際の皮膚症状に似るそうです。
その他には脂肪織炎、結節、血管炎、DIC、血小板減少に伴う紫斑などがあります。

これらの治療には、緑膿菌に有効な抗生剤の全身投与、局所抗菌剤の投与のみならず、外科的なデブリードマン、膿の排出なども必要です。菌血症になると原疾患の治療も含め、多臓器不全などの治療も必要になってきます。
近年は、多剤耐性緑膿菌(MDRP: multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa )が院内感染症の起因菌として、ブドウ球菌とともに問題になってきています。カルバペネム、アミノグリコシド、フルオノキノロンに耐性を示し、治療が極めて困難で施設内部のみならず、外部にも伝搬していく危険性が指摘されています。日本では2006年のデータで分離される緑膿菌の約2.5%がMDRPであったということです。分離される医療機関も年々増加しているようで、危惧されています。

参考文献

Morton N. Swartz: Gram-Negative Coccal and Bacillary Infections. p1735-1739
Fitzpatrick’s Dermatology in General Medicine 7th ed. K Wolff, LA Goldsmith, SI Katz, BA Gilchrest, AS Paller, DJ Leffell. Mc Graw Hill, 2008

東 禹彦: 爪 基礎から臨床まで 金原出版 第7版 2013

切替照雄: 多剤耐性緑膿菌. 感染症診療 update. 感染症診療の現在 H.現在問題となっている耐性菌 S63  日本医師会雑誌 第143号・特別号(2)、2014

緑色爪

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