爪囲の上皮性腫瘍

◆爪および爪の周囲には上皮性の腫瘍が見られることがありますが、その多くはイボです。
爪の側面にできることが多く爪を噛んだり引っ張ったりする人に多いことからもそれが裏付けられます。普通4ー5年くらいの経過をとるとされますが、40歳以上長期にわたって治らないケースではボーエン病などとの鑑別を要することもあります。一般に痛みはありませんが、亀裂を作ると痛みを伴います。稀には爪甲下にもでき、爪を持ち上げてグロムス腫瘍に似たり、骨びらんを生じることもあるそうですが、こうなると、ケラトアカントーマや有棘細胞癌との鑑別も必要になってきます。
実際、時としてイボは見た目も病理組織学的にも、ケラトアカントーマや有棘細胞癌と似て一部分だけでは区別がつかないこともあるそうです。
イボの治療は、その他の部位と基本的には変わりません。モノクロル酢酸をつけて乾燥させ、その後サリチル酸ワセリンでイボを剥がすことを繰り返します。熱湯に1日2回つけるという方法も効果的だそうです。タバコなど血管を収縮させることは治療を長引かせることになります。硝酸銀、SADBE(squaring acid dibutylester)、DPCPなど接触免疫療法もよく行われます。DNCBは以前はよく用いられていましたが、Ames testで発癌性が知られてからは使われなくなりました。
カンタリジン、イミキモド、5-FU、ブレオマイシン、フェノール、液体窒素などが用いられます。また各種のレーザーも用いられます。
ただ、爪で注意を要することは、爪母にブレオマイシン、液体窒素などで強いダメージがかかると瘢痕などの永久的な爪変形、欠損を生じる恐れがあることです。
◆ケラトアカントーマ
頻度は少ないものの報告があります。有棘細胞癌に似るものの、良性で自然に消退するものですが、爪部では爪甲があるために前方向に発育し、骨を破壊し自然消退はしないとされています。組織所見で診断しますが、他の部位と異なり切除が必要です。
◆色素失調症に見られる腫瘍
まれなX染色体優性遺伝形式をとる疾患で、炎症期、疣状苔癬期、色素沈着期、色素沈着消退期をとります。男児の大部分は死亡するためにほとんど女児です。皮膚の症状は4-5歳からほとんど消退し思春期には消失するのですが、眼、歯、骨、中枢神経に異常を伴うとされます。20歳を過ぎるころから爪甲下に有痛性の角化性腫瘍を発生することがあります。ケラトアカントーマに似た像をとるそうです。切除かレチノイド治療が有効だそうです。
◆前癌状態
光線角化症、砒素角化症、放射線皮膚炎などが手指にみられることがあります。
砒素は現在は日本では農薬に使われることはありませんが、かつては使用されていました。またサルバルサンなど医薬品としても使用されていたこともありました。時に井戸水などの砒素中毒などもあります。慢性の砒素中毒では、色素沈着、色素脱失とともに、手足に角化症がみられます。またさまざまな臓器にも発癌性を有します。
放射線皮膚炎は、レントゲンを扱う医師、歯科医師、治療の一環としてX線照射を受けていた患者にかつて発生していました。皮膚硬化、萎縮、血管拡張などの皮膚変化が起こり、数十年たってから皮膚癌を発症してきます。
これらが進展すると表皮内癌から、さらに真皮内へ浸潤した有棘細胞癌となっていきます。
◆ボーエン病、有棘細胞癌
指にも角化性の表皮内癌として発生することがあります。徐々に進行することが多いので長く診断がつかないこともあります。みためがイボに似ていることもあるので、40歳以上で何年も治らないイボは注意が必要です。潰瘍、結節、出血を伴ったものは浸潤の可能性もあります。このような場合は病理組織検査が必要になってきます。
ボーエン病ではヒトイボウイルス(Human Papilloma Virus: HPV)が検出されることもあります。HPV16, 34, 35などです。これらでは陰部にもHPVが検出されることもあり、慢性の掻痒症などで掻いていて、手指に感染することも考えられています。種々の外傷も原因の一つと考えられています。
基底細胞癌の報告もありますが、手指では稀とのことです。
治療は手術で腫瘍細胞を完全に取り除くことになります。骨まで浸潤していれば指の切断になりますが、骨への浸潤がなければ0.5-1cm辺縁を離して腫瘍を切除し、植皮します。ベストなのはMohs microsurgeryだそうですが、切り出した標本を水平にして診断する技術など高度なテクニックが必要とのことです。

参考文献

東 禹彦:13 爪および爪周囲組織の腫瘍. 爪 基礎から臨床まで 金原出版 第7刷 p176-193, 2013

Luc Thomas, et al. Tumors of the Nail Apparatus and adjacent Tissues. Baran & Dawber’s Diseases of the Nails and their Management, 4th ed. Edited by Robert Baran, David A.R. de Berker, Mark Holzberg and Luc Thomas. John Wiley & Sons, Ltd. p 637-743, 2012

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