好酸球性膿疱性毛包炎(太藤病)

ニキビの鑑別で好酸球性膿疱性毛包炎(太藤病)のことに一寸触れました。そのことが気にかかっていたところ、新着のVisual Dermatologyに 「太藤皮膚科学の系譜 若手に伝えたい「2つの太藤病」の源流」という特集号が目に止まりました。また皮膚病診療のトップに京都大学宮地良樹教授が「丘疹―紅皮症の診断ポイント」というトピックスを書かれていました。太藤病というのは知っていたけれども、太藤重夫先生がこれ程すごい人で昨年亡くなったこと、その足跡は全く知らなかったので興味深く読みました。このブログで書くことではないかもしれませんが、一寸触れたくなりました。

 年表によると、太藤先生は大正6年(1917年)東京都本郷に生まれる。京都大学を卒業後、昭和37年京都大学皮膚科教授、昭和54年同退官、平成24年10月逝去となっています。
そして、一つ目の太藤病が好酸球性膿疱性毛包炎( eosinophilic  pusutular folliculitis:EPF)で1965年に初めて報告、1970年に類似の3症例をEPFとして英文誌に報告されています。
 2つ目の太藤病が「丘疹―紅皮症」で昭和54年(1979年)退官時に報告、1984年退官後にpapuloerythrodermaとして英文誌に報告されています。
この2つの病気のことについては詳しく触れませんが、日本人の発見した(名前のついた)皮膚病というのは数十あるとされますが、必ずしも広く認知されたもの、メジャーなものばかりではありません。その中で、世界中の国際的に著名な皮膚科医の業績を集めた単行本[Classics in Clinical Dermatology]の中で太田母斑で有名な太田正雄先生と太藤先生が日本を代表する2人の皮膚科医として紹介されているそうです。
太田先生は木下杢太郎の方が皆さまにも通りがよいかもしれない、戦前の有名な皮膚科医です。(当ブログでも一寸触れたことがあります。木下杢太郎2012.1.8 木下杢太郎―落ち穂拾い2012.1.15)
 ただ、太田母斑は戦前の報告で欧米人ではほとんどみられず、本邦で多いことからすれば、太田先生ではなくてもいずれは日本人皮膚科医の誰かが発表していたでしょう。
 それに比べると、ごく近年まで多くの皮膚科医が目にして、通り過ぎたであろう太藤病を独立疾患として認識した慧眼は、しかも2つもとは驚くばかりです。
 そして、もう一つ驚くことは、太藤皮膚科学の系譜の中で多くのお弟子さんたちが(いずれも現代日本の皮膚科のリーダー達と目されている人々が)太藤先生の一言に感銘を受けたり、ヒントを得たり、その後の皮膚科研究の方向性を見出したりしたことを述べていることです。多くの先生方が今日の自分があるのは太藤先生の指導の賜物だというような述懐をされていました。
 そして、さらに別の意味で驚くことは、太藤先生は京都大学出のバリバリのエリート学者かと思うとどうもそうでもないらしい経歴のようです。
昭和16年卒、4年間は軍医として従軍、復員後は富岡で内科医をして同期に6年も遅れて皮膚科に入局されたそうです。当然教授にならなければ開業でも、と思われていたようです。教授になってからも基礎研究トレーニングは受けていない、大した器械もない、入口に水たまりがあり、ブロックを踏んで入るような「ぼろ屋の研究室」で毎日What`s new?と研究をされたそうです。
後年ある酒席で「決まりきった研究はつまらん。アイデアひとつで思いがけない結果が出るから研究はおもしろいのだ。博打の要素もある。」と述懐されたそうです。自称麻雀の神様という先生の面目躍如といったところでしょうか。そして、退官も定年を待たずにさっさと大学を辞めたそうです。
 さらにもうひとつ、雑誌のページをめくっていくと、最後の方に仏師太藤重夫先生というコラムがあり、穏やかなご尊顔の仏様の彫像が写っていました(太藤重夫 作)。まるで玄人はだしです。いろいろな顔をもった人だなと益々感銘を受けました。
自らは、先頭に立って引っ張る、俺についてこい、というタイプではなかったようですが、多くの教授達を生み出した名伯楽だったのでしょう。
 こんな一言が(提言やサジェスチョンや疑問が)あの先生方のあの大きな仕事のきっかけになったのか、と驚きというか種明かしをしてもらったような事も多く書かれてありました。
 常に「なんでや?」というような探求心を持って、国際性の重要性を知り、大家にありがちな権威主義的なところがなく、若手の医師とも対等に接したというエピソードも書いてありました。
この特集号は皮膚病特集というよりも太藤先生の伝記物、あるいはそれに連なる皮膚科名医たちの伝記や裏話として面白く読ませてもらいました。

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