オゾンホールの減少

 

先日、新聞報道で大気圏を取り巻いているオゾン層の回復兆候がみられたとありました。
国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)が今月10日に発表したそうです。
1989年に発効したモントリオール議定書でフロンなどのオゾン層破壊物質が規制された結果の初めての成果といえるそうです。
冷蔵庫やスプレー缶などに使われているフロンなどの排出量が減少したことがこの結果につながったようです。今世紀半ばまでには80年の水準までに回復することが期待されるとのことです。
ただ、南極大陸上空のオゾンホールは80年代と比べるととてつもなく大きいものでこれがすぐになくなるとも思えません。これが縮み始めるのに10年はかかる見込みとのことです。
オゾン層は地球を取り巻いていて、有害な紫外線を遮り、皮膚癌の抑制や眼の保護に役立ちます。
ただ、一方でフロンの代替として用いられるハイドロフルオロカーボンは地球温暖化効果があり、この排出量が増え続ければ地球温暖化の悪化要因にもなります。
気象庁発表の紫外線量の経年変化表をみると、この10年間で筑波、札幌ともに4-5%上昇しています。皮膚癌(有棘細胞癌)や日光角化症の発症率も南の沖縄で高く、北の北海道になると低くなっています。
悪化の一途 を辿っていた紫外線の増強が地球環境保護への取り組みによって僅かとはいえ、いくらかでも減少すれば喜ばしいことです。

太陽光線は電磁波(electromagnetic wave)の光の連続スペクトルからなっていますが、成層圏オゾン層によって有害な短波長紫外線から保護されています(the ozone umbrella)。
それで地上に到達するのはおよそ300nm(ナノメーター)より長波長の光です。
電磁波は短いほうから電離線(γ線、X線)、紫外線(ultraviolet light)、可視光線、赤外線、電波と命名されています。
紫外線は真空紫外域(vacuum UV,100~190nm)、短波長紫外線【C域UV(UVC,190~290nm)】、中波長紫外線【B域UV(UVB,sunburn spectrum,290~320nm)】、長波長紫外線【A域UV(UVA,320~400nm, UVAII,320~340nm, UVAI,340~400nm)】に分けられます。
すなわち、太陽光線にはUVBの約半分とUVA全部が含まれます。さらに可視光線(visible light)400~780nm、赤外線(infrared light)780(810)nm~1mmも含まれています。

UVB,UVAの皮膚への影響は以前のブログ(日焼け止め 2012.12.18)にも書きましたし、長くなるので省略しますが、従来は日焼けを起こすUVBの悪影響が重要視されてきましたが、UVAも皮膚の深くまで到達しコラーゲンの量を減らし、日光性弾力線維変性をきたすなど光老化、シミなどにも関与することが分かってきました。

より重要な光(紫外線)発癌ですが、原因となる波長は300~320nmと考えられています。300nmより短波長の紫外線(254nmの殺菌灯、UVCは紫外線致死の細胞実験などに使われ、有害ですが)は主として表皮の角層で著しく吸収され表皮以下には届かないとされています。
UVと紫外線発癌を不動のものにしたのは色素性乾皮症(Xeroderma Pigmentosum)です。これらの患者さんはUV損傷で生じたDNAのピリミジン2量体を除去修復できません(Cleaver JE, 1968)。DNA修復機構の破綻がゲノムの不安定化をもたらし、発癌に至ると考えらえますが、最重症のA群の患者さんは生後すぐに強い日焼けを起こし、早晩種々の皮膚癌を発症してきます(3歳での有棘細胞癌の例あり)。
ただ、紫外線発癌だけをみても、この他に癌遺伝子、癌抑制遺伝子、免疫監視機構などさまざまな因子が関係しているようです。
また、人側の因子もXPなど遺伝的な因子の他にスキンタイプ(I~VI)も大きく関係します。

太陽光線は恵みとともに、人体への悪影響も多々ありますが、今回の報告が確実になって、オゾン層が以前の状態に戻る第1歩となることが期待されます。

参考文献
光線過敏症 監修 佐藤吉昭  編集 市橋正光 堀尾 武 改定第3版 金原出版 2002