陥入爪と巻き爪

先日は、陥入爪と巻き爪の講演がありました。講師は東京医科大学病院皮膚科の原田和俊先生でした。
陥入爪と巻き爪はしばしば混同されて使われますが、本来は別物です。
外来での総数は2-3%程度と湿疹などに比べれば少ないですが、逆にいえば、結構コンスタントにみられる疾患ともいえます。また医療機関でもいまだに安易に爪の先端を切除するだけの治療を繰り返したり、逆にすぐに手術療法を行ったり、抜爪を行ったりというケースもみられます。
爪の治療に経験の深い原田先生に適切な外来治療の方法を講演していただきました。
【陥入爪と巻き爪】
陥入爪・・・爪の先端が、軟部組織である側爪郭を傷つけて、肉へ食い込み炎症を引き起こした状態です。爪甲は上から拇趾(第1足趾)を支え、保護してスムーズな歩行を補助します。爪が拇趾の先端より長ければ爪は肉に食い込みませんが、深爪などをして短く切られると、爪甲の先端は側爪郭に食い込みます。その結果陥入爪がおきます。
なり易い人は爪甲の幅が広い人、剣道、卓球、テニスなど足先に強い力のかかるスポーツをしている人、巻き爪の人、深爪をする人、ハイヒールなど窮屈な靴を履く人、また最近は抗がん剤などで分子標的薬を使っている人などです。
巻き爪・・・遺伝的な要因や生活環境などによって爪甲が過度に彎曲した状態です。

この両者は元々別の疾患なのですが、陥入爪の原因の一つが巻き爪であり、しばしばこの両者が合併するために混同されていることが医療関係者の間でもあります。
【陥入爪の治療】
1.Gutter法・・・爪甲の辺縁に塩化ビニル製のチューブを挿入して、爪甲の端をチューブで覆い、側爪郭への陥入を取り除き爪の先端を延ばす方法です。
比較的簡単に短時間ででき、多くは麻酔も不必要です。痛みの解除もすぐに非常に有用な方法ではありますが、完全な治癒までは長い期間がかかります。また虚血肢や糖尿病など血行の悪い人に施行すると壊疽を助長することもあり、注意が必要です。
また爪が欠けていたり、爪甲が短い場合は挿入できないこともあります。
2.アクリル樹脂人工爪法・・・東らが報告した方法です。爪甲が短い場合や、深爪や長く炎症を繰り返し爪の角が脆くなったり欠損した場合に適応になります。X線フィルムを土台にしてその上にアクリル樹脂を塗布して人工爪を作ります。基本的には麻酔剤は不要ですが、痛みが強い場合は局所麻酔剤が必要になります。
3.テープ法・・・軽度な症例にしか使えないが、テープを螺旋形に巻くだけなので簡単で有用な方法です。爪が陥入し、発赤、腫脹した爪郭部分をテープで牽引して爪と爪郭を離してやり爪の肉への食い込みを減じます。
Gutter法施行を容易にするための前処置として使われることもあります。
4. フェノール法・・・爪の側縁を2mm程度部分抜爪後にフェノールで爪毋を破壊し、爪甲の幅を狭くすることで陥入爪を治療する方法です。フェノールの圧抵を数分間行った後は無水エタノールで中和します。この方法は重症例などに有効ですが、切除幅を広くしたり、両側に行うと爪甲を上から押さえ支えるという機能を失わせ、鉤彎爪になることがあるので注意が必要です。
【巻き爪の治療】
1. 弾性ワイヤー法・・・「マチワイヤー」と呼ばれる弾性ワイヤーを爪に装着して彎曲を矯正する方法です。但し、対症療法なので、外すと再発し易いことと、強く矯正すると爪が浮いて、鉤彎爪になることがあります。
2.VHO法・・・爪の左右の側縁にワイヤーのフックをかけてワイヤーを締めあげて爪の彎曲を矯正する方法です。メーカーの商品なので講習会に出てライセンスを取得する必要があります。
マチワイヤーと異なり、短い爪にも装着できますが矯正力はやや弱めです。

陥入爪、巻き爪の治療方法は上記の他にもいろいろあり、種々の器具、独自の方式を推奨する先生もあります。
いろんな情報があり過ぎて混乱しそうでしたが、系統的に解説していただいて、少しスッキリした感じがありました。

当院で行っている事例も何回かに分けて紹介してみたいと思います。