円形脱毛症の治療

◆誘因の除去・・・明らかな誘因(感染症、疲労、ストレスなど)があれば、それを取り除くことは有意義ですが、むしろ明らかでないことのほうが多いようです。

◆自己免疫反応の抑制
【ステロイド剤】
*外用剤・・・一般的に良く使用されていますが、主病変が毛球部であり、皮膚表面からの吸収を考えると有効性は局所注射、内服などに比べると低いです。むしろ、強力なステロイド外用剤を長期に使用することで、皮膚の萎縮などの副作用をきたすこともあります。
ただ、左右塗り分け試験をするとステロイド使用側に効果があることは分かっています。一番強い外用ステロイド剤デルモベート(0.05%clobetasol propionate(CP))を密封療法(ODT)すると、30分で皮膚附属器に取り込まれて、5時間で定常状態になり、24時間密封すると、除去後も24時間は貯留していたそうです。頭皮全体に1日5g、14時間密封療法を1週間持続すると2日目から血漿コルチゾールが低下し、外用中止後2日で回復したそうです。
これらのデータより、実際の密封療法はシャワーキャップ、またはラップで30~60分密封する、進行期では2週間毎日行う、ただし、使用量は10g/週以下とする、2週間以後は隔日、3回/週、週末のみと漸減していく、と推奨されています。

*局注療法・・・外用剤よりも有効です。ただし、休止期毛の状態になり毛球部に細胞浸潤など炎症の少ない場合には無効なことも多いので、皮膚生検などの結果を参考にして漫然と長期に使用しないことも重要です。皮膚萎縮や皮膚の陥凹をおこさないためには同部位への頻回注射をさけることが必要です。
具体的には29~30G針を用いて、1箇所に50μlずつを5mm間隔で注射していきます。薬剤はトリアムシノロン・アセトニド(ケナコルトA)、ベタメタゾンリン酸エステル(リンデロン懸濁注)などが使用されます。キシロカイン、プロカインなどと混合、希釈して痛みを減弱させながら注射します。数週間隔で行い、4~8週で効果を認めることが多いですが、6ヶ月を過ぎて効果がない場合は中止すべきとされます。
眼圧上昇、白内障の悪化、網膜、脈絡膜塞栓などを引き起こす可能性もありますので、眼科と共にステロイド全身投与としての副作用のチェックが必要です。

*ステロイドパルス療法、内服療法・・・円形脱毛症は軽症のものから、全身に及ぶ難治性のものまで多くありますので、定まった治療の基準はありません。
これらは有効ではありますが、副作用も多く、また再発することもあるので十分に治療経験のある専門医によってなされるべきです。
ステロイドパルス療法はメチルプレドニゾロン500mgの点滴静注を3日間、1~3クール施行します。病初期(6ヶ月以内)の多発型で、脱毛が全頭に至っていない例。(大山先生はもっと初期(3ヶ月以内で病理組織で炎症所見の明確なものに絞って施行するとのことでした。)
内服療法は30~40mg程度から開始して漸減していきますが、あせって急激に減量すると失敗し、それを取り戻すのにはまたかなりのステロイドの増量が必要とのことです。治療に慣れた専門医が腰を据えて行うべき治療とのことでした。再発を減らし、効果をあげるためにPUVA療法を併用することも良いそうです。最近はnarrow-band UVBやエキシマランプの治療も行われていますが、真皮内深くにまで到達して効果が期待できるUVAを併用しているそうです。(大山先生による)
ただ、急速びまん性脱毛症(acute diffude and total alopecia of the female scalp)といって、ある日突然急速に脱毛が始まり、全頭脱毛になりながら半年程度で自然に治癒する特殊なタイプの脱毛症があるそうで、若い女性に多いそうです。こういったものの見極めも大切だそうですが、予後の良いものと、全頭脱毛のまま生えてこないタイプとの見極めはかなり難しいとのことで脱毛専門医にコンサルトするのがベストと感じました。
またこれらの治療はガイドラインでは15歳以下の若年者には原則使用しないことになっています。

【その他の免疫抑制剤】
シクロスポリンは有効であったとする報告もありますが、必ずしも有効ではなく、再発例もあり、副作用も勘案すると推奨されません。メソトレキサート(MTX)やタクロリムスも有効とはされていません。

【生物学的製剤】
有効であったとする報告はありますが、まだ例数が少なく、今後の検討課題だそうです。
ただ、たまたま見ていたインターネットの記事で関節リウマチ治療薬Tofacitinib(JAK1/3阻害剤)で乾癬で、かつ全身型の脱毛症の患者さんの皮疹の改善だけではなく、体の毛も生えてきた、という記事があり興味を覚えました。(JID published online June 18,2014)

◆局所免疫療法
1974年にDNCBによる円形脱毛症の治療効果があることが報告されました。その後DNCBには発ガン性があることがわかり、中止されましたが、それにかわるsquaric acid dibutylester(SADBE)や2,3-diphenylcyclo-propenone(DPCP)が新しい感作物質として見出され、発がん性もないことがわかりました。
ガイドラインでは25%以上を占める多発型、全頭型などの難治性の円形脱毛症にはこれが第1選択肢として行うべきであると記載してあります。
まず、通常のパッチテストの要領で2%溶液で感作させます。赤くなったら(感作が成立)2~3週後に反応の程度に応じて、1×10-4%~1×10-3%の薄い溶液からはじめます。頭部全体に塗布して半日程度放置しておき、その後洗髪します。少しかゆみや赤みがあり、軽くフケが残る程度の濃度を見極めながら少しずつ濃度を上げていきます。1~2週ごとに繰り返していき、効果の発現までには2,3ヶ月を要するそうです。その後も間隔を開けながら年単位の長い治療が必要だそうです。たまに接触蕁麻疹、リンパ節腫脹、多形紅斑、色素沈着、白斑などの副作用があるそうです。

◆その他の治療
日本では、経験的に古くからセファランチン、グリチロン、塩化カルプロニウム(フロジン液)、漢方薬などが好んで使われてきました。諸外国ではこれらは使用されません。その効果は客観的な検証がされたわけではありませんが本邦では保険診療としても広く使われています。
第2世代の抗ヒスタミン剤は局所療法と併用すると効果が増すという報告がなされてきています。
外国ではミノキシジルが用いられることもあるとのことですが、本邦では円形脱毛症には適応がありません。

参考文献

Visual Dermatology 第9巻・第2号 2010
毛髪の疾患ー後天性脱毛症 責任編集 勝岡憲生
伊藤泰介 円形脱毛症の展望・診療ガイドラインについて p134-137

皮膚科臨床アセット 6 脱毛症治療の新戦略 中山書店 2011
総編集◎古江増隆 専門編集◎坪井良治
13. 円形脱毛症ガイドライン  荒瀬誠治 80
14. 円形脱毛症に対する局所免疫療法の実施方法と注意点 入沢亮吉 85
15. 円形脱毛症の全身療法 中島武之、板見 智 97

野見山明子 円形脱毛症の治療ーステロイドの外用療法、局所療法を中心にー
日皮会誌:123(13).2418-2420.2013