脱毛症の診断

脱毛症の診断は眼で見るパターン診断も有用です。ある程度のことは見た目のパターンでも推定できますが、診断に有用なものに、トリコスコピー、病理組織診断法があります。

癖毛、縮毛(ちじれ毛)、巻き毛によって薄毛になる先天性の疾患は多数あり、遺伝子異常も多数同定されていますが、ここでは省略します。これらの場合は心疾患や掌蹠角化症、魚鱗癬などの合併をみることもあります。

主に後天性の脱毛症についての診断のヒントについて調べてみました。

◆トリコスコピー
 ダーモスコープを用いて脱毛部の頭皮、毛孔、毛幹などを観察することをいいます。毛髪にゲルがついてべたべたにならないようにゲルを用いないタイプのダーモスコープが使われます。
乾らは、トリコスコピーを用いて、脱毛症を臨床的に診断していく方法をアルゴリズムの形で提示しました。
すなわち、まず眼でみたパターンで凡その見当をつけます。
円形の脱毛斑・・・・・円形脱毛症
前頭部と頭頂部にパターン化した脱毛・・・・男性型脱毛症
帯状脱毛・・・・円形脱毛症、オフィアシス型
全頭脱毛・・・・円形脱毛症、全頭型、汎発型
びまん性脱毛
それらにあてはまらない脱毛

これらのパターンで見当をつけた上でトリコスコピーによる確認作業を行う、それでも分からない場合は皮膚生検を行う、といった経路を辿ります。

*円形脱毛症
 黒点・・・毛髪が折れて脱落した基部に相当、病勢と相関しますがトリコチロマニアでもみられます。
 漸減毛(感嘆符毛)・・・特異度が高い、トリコチロマニアでは見られません。
       これは成長期毛が急速に退行期、休止期に移行したために毛の直径が縮小したことによります。
 切れ毛、折れ毛・・・トリコチロマニアでもみられます。
 黄色点・・・皮脂と不完全に形成された毛幹の混合物と考えられます。多くみられますが、男性型脱毛症でも見られます。
 短軟毛・・・病勢と負の相関があります。これが多数みられれば回復期と判断できます。

*男性型脱毛症
明らかに他と比べて細い毛髪の割合が多く見られます。毛の直径の不均一性が見られます。(20%以上)
また、毛孔周囲の色素沈着、少数の黄色点がみられます。

*瘢痕性脱毛症
毛孔消失、毛孔周囲紅斑、毛孔周囲鱗屑がみられます。オフィアシス(蛇行型)円形脱毛症ではfrontal fibrosing alopeciaと似ていてトリコスコピーでも鑑別が難しいです。

*トリコチロマニア(抜毛症、抜毛癖)
抗しがたい衝動で自ら毛を引き抜くことで脱毛斑ができます。従って引き抜くことによってみられる所見を注意して見分けることが必要です。
輪状の毛髪(coiled fractured hairs)、縦に裂けた毛髪(longitudinally short hairs)などが特徴です。
長短の硬毛が脱毛斑内にみられますが、これらは簡単には引き抜けませんし、すべて成長期毛です。

◆病理組織診断法
脱毛症の原因となる病態は毛周期の可変部、すなわち毛包狭部以下の深いレベルで起こっていることが多いです。それは皮膚の表面からはみることができません。ですから正確に見極めるためには皮膚生検による病理組織検査が必要になってきます。
実際の方法は下記の通りです。(大山 学 先生による)
アドレナリン入りのキシロカインで局所麻酔をする。その後10分程度十分に時間をおくと出血が少なくてすむ。
4mmパンチで毛球部の深さまで入るように十分深く円筒形にくり抜く。
浅い部分から水平に4分割して水平面での状態の組織標本を作る(上から漏斗部、狭部、毛球上部、毛球部)
もう1か所病変部から生検し、通常の縦切り標本を作り、表皮基底層や毛の全体の構造変化をみる。
さらに健常部1か所の水平標本(transverse section)を作り、病変部と比較する。
3か所も大変そうですが、3-0ナイロン針を1-2針かけるだけで十分止血はできて翌日からシャンプーもできるそうです。
4mmパンチの利点は、4mmパンチ生検の断面でアジア人種では20本程度の毛包があることが統計的に分かっていることです。
また成長期毛と休止期毛の比率は分かっていて、通常0~15%が休止期毛だそうです。また男性型脱毛などでみられるミニチュア化した毛包は通常では3割を超えないそうです。
*円形脱毛症
急性期ではswarm of beesと呼ばれるように、ミツバチが群れているように毛の周囲に炎症性細胞浸潤がみられます。
しかし、慢性期になると次第に休止期の毛が増えていき、両者が混在した像をとるそうです。

*男性型脱毛症
ミニチュア化した毛包の増加、休止期毛の増加がみられます。総毛包数は変化しません。

*休止期脱毛
出産、手術後などのストレス、栄養障害、内分泌障害、薬剤などで休止期毛(抗がん剤などは成長期脱毛)が増えます。総数は変化せず、ミニチュア化もありません。

*トリコチロマニア
炎症はありません。不自然な毛包構造の破壊などがみられます。

*瘢痕性脱毛
エリテマトーデス、毛孔性扁平苔癬などが代表ですが、病理的に診断できます。

参考文献

皮膚科臨床アセット 6 脱毛症治療の新戦略 
総編集◎古江増隆 専門編集◎坪井良治 中山書店 2011
乾 重樹 8.脱毛症の補助診断法:トリコスコピー p.51-55
大山 学 9.脱毛症の病理組織診断法 p.56-61