単純性血管腫に対するレーザー治療

【歴史】
1964年 Goldman 発振波長694nmのルビーレーザーを血管性疾患に使用した.
1968年 Solomon 488nm, 514.5nmのアルゴンレーザーを単純性血管腫に使用した. 効果は少なく瘢痕などの副作用があった.照射時間0.2秒
1981年 Anderson 577nm(酸化ヘモグロビンに吸収波長を持つ)の発振波長で、照射時間を短くした(1μs)色素レーザーを単純性血管腫に使用した.
1986年 Tan パルス幅を360μsに延長して十分に血管を障害できるようにした.
1989年 Tan 発振波長585nmとし、レーザー光の皮膚深達性を高めた.
1996年 日本でも色素レーザーが保険適用になった.
2000年 パルス幅可変式のロングパルス色素レーザー(波長595nm,照射時間1.5〜40ms)が発売された.

【色素レーザーの原理】
皮膚(真皮)内の拡張した血管内の赤血球に存在する酸化ヘモグロビンによって赤アザは赤く見えます。従ってその血管を選択的に傷害して潰して、正常な線維組織に置き換えて、赤みを消退させていきます。
レーザー光がヘモグロビンに吸収されて光エネルギーが熱エネルギーに変換されて赤血球は熱変性し、近接する血管壁にも熱変性がおきます。
熱エネルギーが少ないと治療効果はでません。適切なエネルギー量だと治療効果がでて、軽快します。熱エネルギー量が過大であると周囲の組織まで傷害されて瘢痕が形成されてしまいます。
それを決定づけるレーザー光の3要素は1、発振波長 2、照射時間 (パルス幅) 3、エネルギー密度です。これらの3条件を満たす光を照射することが必要で、selective photothermolysis(SP)とよばれています。
1、 発振波長
酸化ヘモグロビンの光の吸収スペクトラムは415nm, 542nm, 577nmの3つのピークがあります。415nmが最も吸収率が高いのですが、同時に周囲の膠原線維への吸収率も高いので瘢痕になる可能性が高いです。それで後者が選ばれます。ただ波長が長い方が皮膚深達度が高いのでより長い波長が選ばれています。
2、照射時間(パルス幅)
初期の色素レーザーのパルス幅はごく短いものでした。小児の小さな血管をターゲットにしていたために、300μs, 450μs などの短いパルス幅を使用していて成人の血管腫では治療効果は限定的でした。
そこで最近はパルス幅を長くした、パルス幅可変式ロングパルス色素レーザーが開発されました。
Candela社のVbeamやCynosure社のCynergyがあります。Vbeamは2010年より保険適用になりました。
これらは対象血管の太さにあわせて450usec〜40msecの間で選択できます。ただ可変式といっても短いパルス光を繰り返し照射するもので見かけ上パルス幅を長くしたのもなので疑似ロングパルスとよばれています。
3、 エネルギー密度
ジュール量は簡単に変えることができますが、強くすると瘢痕、色素沈着・脱失などの副作用がでる危険性がでてきます。
熱による組織傷害を減弱するために最近では皮膚冷却装置が付属したレーザー機器が主流です。Vbeamではdynamic cooling device(DCD)という冷却装置が付属しています。
【単純性血管腫への治療】
実際の治療は機器の性能もさることながら術者の技量、パラメータの設定によって大きく異なるそうです。成人の場合は無麻酔で、あるいはペンレス、エムラクリームなどの表面麻酔で行われます。輪ゴムで弾かれる程度の痛みだそうです。小児で範囲が広い場合、顔面などで動くと危険な場合などは簡易全身麻酔を行うこともあるそうです。
照射直後は熱エネルギーによって一部に表皮下水疱ができる場合もあります。また衝撃波による一時的な蕁麻疹様の紅斑が生じることもあります。翌日には照射野は紫〜暗赤色に変色します。紫斑、びらん、色素沈着・脱失が生じることがあるので1ヶ月間は遮光を行います。3〜6ヶ月間隔で照射を繰り返します。
【治療効果】
照射を繰り返すと徐々に紅斑は消退するものの退色の程度は低下していき、多くは3〜5回の照射で限界に達するそうです。ほぼ完全に消退する例は全体の2〜3割程度にとどまるそうです。
鮮紅色や毛細血管拡張など表在性のもののほうが、紫赤~暗赤色の全層型のものより治療効果は良いそうです。また年齢では皮膚が薄く、血管が幼弱な乳幼児の方が成人より治りやすく、部位では顔面、頚部では有効率が高く、静脈圧の高い下肢では低いそうです。
レーザーの原理からいって、皮膚の表面から深さ1.5~1.7mm程度までが限界でそれ以下の深さの血管腫には光は到達しませんので効果はありません。
レーザー治療は進歩して、Vbeamなど最新の機器が登場してきたとはいえ、残念ながら赤アザの治療には限界があることも説明して過度に期待を持たせすぎないことも必要とのことです。

参考文献

岩崎泰政: 血管性病変のレーザー治療の原理と作用機序 
葛西健一郎: 単純性血管腫のlife-long management     
皮膚レーザー治療プロフェッショナル  渡辺晋一/岩崎康政/葛西健一郎 編集 南江堂 2013

血管病変に対するレーザー治療
岩崎泰政: ポートワイン母斑・毛細血管拡張症
葛西健一郎: 苺状血管腫
スキルアップ皮膚レーザー治療 編著 川田 暁 中外医学社 2011