酒さ(2)病因・病態

酒皶の明確な原因はまだ解っていません。ニキビと違って毛包脂腺系は一義的ではありません。
日光の影響で顔面の血管、内皮細胞がダメージを受け、間質の浮腫が起こりさらに膠原組織などの支持組織がダメージを受けるといった機序を考える人もいます。
また片頭痛との合併が多くみられることより、血管反応性の異常に原因を求める人もいます。
また、ニキビ菌、毛包虫、常在細菌、ヘリコバクター・ピロリ菌などの微生物に原因を求める人もあります。
確かに抗生剤、ニキビダニに対するメトロニダゾールなどの治療は効果がありますが、これらが抗菌効果によるものなのか、抗炎症作用によるものなのかはまだよく解らず結論がでていません。
上記のベースの上に、慢性の繰り返す引き金(悪化因子)の暴露によって、ほてり、発赤などが起こってきます。
悪化因子には、温熱、寒冷、日光、風、熱い飲み物(カフェインよりもむしろ温度)、運動、香辛料、アルコール、感情、ストレス、化粧品、刺激性の外用薬、更年期、発赤・血管拡張を助長する薬物などさまざまなものがあげられます。
発赤が顔にみられるのは、顔の血流量がほかの部位より多く、また血管がより浅く、太いためといわれています。そして、これが皮膚温度を上げ、微生物やニキビダニなどの反応、動態を変化させている可能性もあります。
ただ、アクネ菌や毛包虫、ピロリ菌などの酒皶への関与は肯定的結果と否定的結果が入り混じり結論は出ていません。
現時点でいえることは外界の環境や微生物は何らかの関与はするが、それ単独で酒皶の病態を引き起こすものではないということです。
 悪化因子の多くは自然免疫機構と呼ばれる皮膚防衛機構を発動させます。
 
最近、山崎らは自然免疫分子の一つである抗菌ペプチドのカセリサイディンという物質に着目して酒皶での動態を研究しました。そしてこの物質が酒皶の原因に大きくかかわっていることを発見しました。(あまりに専門的で、論文を読んでもよく理解できない事柄で、飛ばして無視してもよいですが、非常に重要な事柄なので自分の理解した範囲で書き述べてみたいと思います。)
 酒皶の患者さんの皮膚を生検採取してカセリサイディンを調べたところ、この物質は正常皮膚ではほとんど検出されないのに、酒皶表皮では基底層から角層まで大量に発現していました。これは傷ができたり、感染が生じると発現されるそうです。
 カセリサイディンは抗菌ペプチドなので、大量にあれば微生物も減少するはずですが、逆に微生物が多くみられることは、カセリサイディンが抗菌物質として機能していないか、抗菌作用以外の機構で酒皶の病態に関与していることを示唆しています。
そして、酒皶皮膚で発現するカセリサイディンは正常皮膚で発現するものとアミノ酸配列が異なっていました。皮膚ではセリン・プロテアーゼの一つであるカリクレイン5という蛋白分解酵素が働いて、カセリサイディンを酵素切断し活性型に変換するそうですが、酒皶皮膚ではこのカリクレイン5という物質もカセリサイディンの発現量と並行して上昇していたそうです。
山崎らはこの物質の発現の意義を調べるためにマウスに投与して動物実験を行ったそうです。すると、この物質によって肉眼的には局所の紅斑(赤み)が、また組織学的には炎症細胞浸潤と血管拡張が認められました。すなわち、カセリサイディンによってマウスに酒皶様の変化を作ることができたということです。
またカリクレイン5をマウス皮膚に投与することによっても皮膚の炎症が惹起できました。これはカセリサイディン欠損マウスでは起こす事ができませんでした。

 さらに酒皶皮膚では細菌などの微生物の認識にかかわる物質であるToll様受容体2(Toll-Like Receptor 2: TLR2)が発現して、かつカリクレイン5の発現と一致していることも報告されています。この事は、酒皶皮膚ではTLR2が発現して外界の刺激に対する感受性が高まり、これがカセリサイディン、カリクレイン5を表皮に誘導して炎症、血管増生、血管拡張を起こし、酒皶の病像を形作るという経路が成り立ちます。
 すなわち、酒皶の原因の一部はTLR2やカセリサイディンなど自然免疫応答の不調、異常から説明できるということです。
この方面の研究が更に進展すれば酒皶の治療にも新たな展開が開けてくるかもしれません。
次回は酒皶の治療について調べてみたいと思います。

参考文献

田辺恵美子:特集/ここが聞きたい 皮膚科外来での治療の実際 酒皶の診断と治療 MB Derma, 197: 1-8, 2012.

山崎研志:特集 最近のトピックス2011 酒皶をめぐる新しい病態論 
臨床皮膚科 増刊号 65: 56-59,2011

Rook`s Textbook of Dermatology 8th Edition
Volume 2  Chapter 43.1  Rosacea, Perioral dermatitis and Similar Dermatoses Flushing and Flushing Syndromes
Edited by  Tony Burns  Stephen  Breathnach  Neil Cox  Christopher Griffiths
Wiley-Blackwell 2010

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