顔のホクロ、シミ、癌

昨年の千葉市医師会学術講演会で、大原先生の皮膚癌の講演がありましたが、好評につき今年も第2弾をお願いすることになったそうです。
今年は主に顔のシミ、ホクロ、癌についてのお話でした。
この3者は時として、紛らわしく患者さんの心配の種にもなりますし皮膚科医も悩ますこともあります。
【ホクロ】
<ホクロって何?>
・・・ホクロは母斑細胞の塊のことです。良性の腫瘍といってもよいです。ホクロとアザの違いは前者が小さくて、生後しばらくしてから膨らんでくるもの、後者は中型、大型で生まれつきあるもの、大きさは変わらず、平らで少し隆起し、むしろ次第にうすくなります。
<ホクロって癌になるの?>
・・・小型のホクロ、中型のホクロから癌化することはあります。しかしその頻度は非常に少なく、正常の皮膚から癌になるのと差はないようです。ホクロが癌になったという話は良く聞きますが、それは元々癌だったが、素人眼にはホクロにしかみえなかった、というのが真相のようです。
現在ではこの鑑別にダーモスコピーが威力を発揮します。しかし100%診断できるわけではありません。
しかし、体全体を覆うような大型、巨大型のホクロ(先天性あざ)では話が異なります。100人のうち、5人くらいはその中からメラノーマが発生します。
<ホクロに似て非なるものは?>・・・
・青色母斑・・・青ボクロとも呼ばれます。細胞の種類が違います。青あざの細胞、真皮メラノサイトの増殖です。青い盛り上がり、しこりとしてみえます。7,8割の人がボールペン、鉛筆の芯を刺したといって来院します。この細胞がパラパラ増えれば蒙古斑となります。
・血豆・・・最初赤く、後に黒くなります。
・black heel・・・足裏、特にかかとなどの圧のかかる部位の皮下出血です。ときにメラノーマを心配されることもありますが、ダーモスコピーで区別がつきます。
・comedo(面皰)・・・毛穴のつまり、ニキビの初発疹です。白ニキビは閉鎖面皰、黒ニキビは開放面皰とよびます。角栓が表面から黒くみえます。
・soft fibroma(軟線維腫)・・・顔、頚などによくみられます。皮膚のポリープと説明すると納得する(わかり易い)ようです。
・脂漏性角化症(老人性イボ)・・・
体質(遺伝)、紫外線の影響で顔に良くできます。老人性のシミから続発します。
小さなものはskin tag,軟線維腫といい皮膚のポリプともいえます。表面が黒くザラザラしていて、小さな穴が多数開いていて軽石状にみえます。中高年のひとには元首相の福田赳夫氏の顔といえば想像できます。
・基底細胞癌(basal cell carcinoma: BCC)・・・顔の黒いホクロに似たもので、悪性のものは基底細胞癌が代表です。BCCは小さいものでもでこぼこしていて、多房性、多結節性になります。
・メラノーマも鑑別が必要ですが、顔にできるものはlentigo maligna melanomaのタイプが多く、シミとの区別が必要で、結節型のメラノーマは体幹に多く出血したり、じくじくしたりします。
<色の濃淡や隆起は悪性の印ですか?>
・・・褐色の色の濃淡も大事ですが、色の多彩さの方がより重要です。良性のシミは基本は褐色ですが、メラノーマでは黒、こげ茶、青、白、ピンク、灰色、などの多彩な色がみられることが多いです。
またホクロは次第に隆起してきて、色が抜けてきます。表面には毛穴があり、毛はしっかり残っています。字面だけをみれば、色が変わり、腫瘤が隆起となりますが、これに惑わされないことが必要です。
またクラーク母斑は中心部が濃く、周辺部が淡くなっていますが、これもシミ出しではなく、色の濃淡で悪性とはなりません。
境界鮮明、左右対称的なものは押しなべて良性です。
<治療は?>
・・・CO2レーザーも明らかなホクロならば良い適応です。脂漏性角化症の際はほとんど液体窒素療法でOKです。レーザーも使いますが、あまり皮膚面が平らになるまでやりすぎると痕が残ります。こつは少し痂疲を残す程度にやるとそこにも熱が伝わっていて、後できれいに取れます。
手術で切り取る場合、よく黒目と白目の関係で患者さんに説明します。黒目部分のホクロをとる場合、白目も含めて切り取ることになります。すなわち1cmとると3cmの縫合創ができるといった具合です。もう一つのやり方にパンチで丸く切り取る方法があります。開放創は傷の周りから縮もうとするので、丸くくり抜いて開放創にしておくと、縮んでニキビ痕、水ぼうそうの痕のように小さい傷で治せる場合もあります。ただ、おでこ、頬のようにでっぱった部分の傷は拡がりますのでやりません。眼の周りなど皮膚の余裕のあるところは良い適応です。

【シミ】
<一般にシミは>
・・・老人性シミ、肝斑、後天性真皮メラノサイトーシス、そばかす、汗管腫、軟性線維腫など様々なものに対して“シミ“いう言葉が使われているようです。
一般的にシミは紫外線の影響を受けやすい頬にでき易く、髪の毛で隠れる額には少ないようです。
・肝斑・・・左右対称性で、境界は不鮮明です。赤茶色できたなく、べたーとした色調です。ビタミンC,トランサミンなどがよく使われます。
・後天性真皮メラノサイトーシス・・・額、鼻、眼瞼部にもみられることがあります。
灰青色に見えます。
・口唇のシミ・・・アトピー性皮膚炎の人で唇があれる人、舐めたりむしったりする人に単発や多発性にシミがみられます。炎症を繰り返すと色素斑が多発してきます。唇の色が全体にうすいのが特徴です。
・老人性色素斑・・・レーザーの良い適応になりますが、ほぼ必ずといってよいほどに炎症後色素沈着がでます。これを説明しておかないと、患者、医者ともに思わぬトラブルに巻き込まれることもあり得ます。
シミもそばかすもレーザーの適応になりますが、あざはなかなか完全には難しいです。手術するかどうか悩むところです。
・老人性シミとメラノーマ(lentigo maligma melanoma)の区別はベテランの医師でも結構難しいこともあります。シミは基本的に褐色の色調の濃淡ですが、メラノーマになるとそこに黒、茶色、灰色などの多彩な色が混じってきます。色の調子が違ってきます。ただ、大きくてもしこりがなくて平らならば早期癌です。(melanoma in situ)表皮基底層を破って真皮へ侵入していない状態。この状態で何年も平気な人もあります。手術で治る可能性が高いです。
逆に小さくてもしこりができてくると早期とはいえません。
【顔の癌】
顔の皮膚癌で、ホクロと似ていて最も多いのが基底細胞癌(BCC)です。
・BCCは局所破壊性ですが、基本的にあまり転移はせずに致死的ではありません。
・8割方は顔にできます。(顔の分節によくできるので、眼、鼻、耳のくぼみなど注意が必要です。)
・数㎜の小さなものでも、よくみると多房性、多結節性で表面、周りが平滑ではなくでこぼこしています。ホクロではまず腫瘤に子供の腫瘤が生まれることはありませんが、BCCではよくみられます。
病型はいろいろありますが、サボテンのように枝分かれしたり、扁平だったり、子供ができたり、腫瘤の中が抉れて出血したりします。ただ、出血といっても顔を洗ったときにかさぶたが取れて、血がにじむ程度です。
・BCCではダーモスコピーが良い診断方法になります。(樹枝状の血管がみえたりします。)

メラノーマ(悪性黒色腫malignant melanoma: MM)
顔に限っていうと、結節型のメラノーマは少ないです。多くが老人性シミと紛らわしい悪性黒子型メラノーマ(lentigo maligna melanoma: LMM)です。
・老人性のシミとLMMとの鑑別は結構難しくベテラン医師でも困難な場合があります。ダーモスコピーでも一番難しい部類です。
表皮基底層の細胞が不規則に増えて、色素が濃くなるので、ダーモスコピーで真上からみると表皮突起の延長部分が輪状に見えますが、その濃さが微妙に違い、輪の濃さの左右差がありますが、かなり判断は難しいです。
・それで、老人性シミでレーザー治療をやり、何度も再発を繰り返している中にLMMが混じっていることもあります。ただ、それでも平であって、しこりがなければ早期の癌として治療、治癒は可能です。

最後に大原先生のコメントは「シミとメラノーマって結構難しいんだ」という言葉でした。
ベテラン専門医でも難しいものもあれば、明らかに大丈夫なものもあり、字面でいうと却って混乱、心配することもあります。素人が的確に判断するのはまず無理です。そのために皮膚科医がいるので何でも癌が心配ならば皮膚科専門医にまず診てもらうのが良いと思いました。