アトピー性皮膚炎治療の新たな展開

アトピー性皮膚炎治療の新たな展開――病態知見から得た新事実――
              大阪大学皮膚科  室田 浩之先生
第2部は、新進の研究者による新たなアトピー性皮膚炎の側面を捉えたユニークな講演でした。その概要と印象記を述べます。
アトピーの治療は以下のものが根幹となります。
(1) 悪化因子の除去と対策
(2) 生理機能異常に対するスキンケア
(3) ステロイド外用薬とタクロリムス軟膏の外用療法と抗ヒスタミン薬などの補助療法
(1) の汗に関しては、従来汗は悪化因子で悪者の扱いでしたが、汗は温度調節、自然免疫、保湿など有用な働きを有するなど皮膚の重要な生理機能の一つでもあります。アトピー性皮膚炎では軸索反射性発汗が低下している事、また思春期再燃型アトピー性皮膚炎患者は乏汗傾向にあります。この様な患者に発汗を促す処置、指導をすると皮膚炎が改善する経験を何例か提示しました。このことより、発汗をうながす指導も有用だと考えられたとのことでした。
小生のコメント:アトピー性皮膚炎(Atopic Dermatitis: AD)患者における前向きアンケート調査が九州大学古江増隆教授をまとめ役として全国のアトピー専門大学を中心に行われていますが、その結果では汗で悪化したと考える患者さんは286例(82.7%)で、そのうち14.7%の人は汗をかかないように工夫していました。但し下記のようなコメントもありました。「成人AD においては、外出をしない、運動を制限する、シャワーを使うなどによって汗をかく機会が減ってきた結果として皮膚の乾燥によりかえってAD が悪化するということも考えられる。特に夏にシャワーがよく使われているが、シャワーを浴びた後に角層水分量が減ってしまうので、シャワー後に保湿薬を塗るなどの処置をすべきである」
講演でも触れられていますように、成人AD では乾燥傾向が強いですが、乳児期では脂漏性湿疹の形を取ったり、あせも様の発疹を生じやすく汗が悪化要因になり易いように感じます。そもそもAD は近年一つの疾患ではなく、似たような症状を起こす疾患群だと考えられるようになっていますので、汗で良くなる場合も悪くなる場合もあるのかと思います。
従って一律に汗が絶対だめ、ではなく個別に患者さんの状態をみながら指導する必要性を教わりました。
温度については、「温まると痒い」ことは、患者さんがよく経験する所ですが、演者らはAD病変部からサブスタンスPによって誘導される神経栄養因子の一つであるアーテミンという物質が「温まると痒くなる」現象を起こすことを見出しました。
ただ、これもある皮膚科医で重症のADの先生のコメントに「熱いシャワーを浴びると天にも昇る良い気持である」とありました。温度によっては蕁麻疹もそうですが、却って気持ち良いのかもしれません。但し、その後の皮疹の反動はひどくなるのは必至ですが。痛み刺激が痒みを抑えるように痒みに関しては奥深いものがあるように感じました。
(2) スキンケアはいつから始めるべきかについて検討されました。アトピー素因を持つ新生児に生後1週間前から保湿剤を使用してバリア機能の評価をしたところ有効な結果が得られたとのことです。早くから保湿することが重要なようです。
ただ、これも日焼け止めもそうですが、かぶれに注意が必要なように思いました。
例えば欧米などピーナッツ入りの保湿剤を赤ちゃんに使うケースで経皮感作が成立し、ピーナッツアレルギーが増えた例を紹介しましたが、長期に使う外用剤でのアレルギーには注意が必要だと感じました。

しかし、色々な新しい知見がどんどん積み重なって治療に反映されることは頼もしいことだと感じました。

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