皮膚筋炎(1)症状

「皮膚筋炎は、皮膚症状と筋症状に代表される膠原病であるが、その臨床症状には多様性がある。年齢からは小児皮膚筋炎と成人皮膚筋炎、筋症状からは典型的(classic)皮膚筋炎と無筋症型筋炎(clinically amyopathic dermatomyositis: CADM)、合併症からは間質性肺炎を合併するもの、悪性腫瘍を合併するもの、および合併症のないもの、に分類できる。間質性肺炎はさらに急性型(急速進行型)と慢性型がある。したがって、皮膚筋炎と単に診断するだけでなく、どのような病型サブセットに属するのかを見極めることが、経過や予後を予測し、治療方針を決定する上できわめて重要である。」(藤本 学:特別講演より)

「主に近位の骨格筋が対称性に障害されるび漫性の炎症性疾患」でさまざまな全身性の炎症を伴う一群の疾患を特発性炎症性ミオパチーというそうで下記のように分類されているそうです。
第1型:多発性筋炎
第2型:皮膚筋炎
第3型:amyopathic dermatomyositis
第4型:小児皮膚筋炎
第5型:悪性腫瘍に伴う筋炎
第6型:他の膠原病に伴う筋炎
第7型:封入体筋炎

皮膚筋炎についてまとめてみます。

【皮膚症状】
《顔の症状》
紅斑(赤み)が主体になりますが、刺激が加わると(Kobner現象といって刺激部分に本来の病気の皮疹が生じること)落屑性や角化性の症状もみられることがあります。
皮膚筋炎で最も有名な皮膚の症状はヘリオトロープ疹という眼の周囲、特に上眼瞼部にみられる淡い紅斑です。ヘリオトロープというのは淡紫紅色をした花(他にもいろいろな色があるそうですが)のことで、それにちなんで名づけられましたが、日本人ではそれよりもっと濃く褐色調が混じります。特異的ではありますが半数程度にしかみられません。
これは化粧品などのかぶれや、その他の疾患(血管浮腫、肉芽腫など)との区別が紛らわしいこともあります。
頬を中心とした紅斑も特徴的ですが、全身性エリテマトーデス(SLE)や接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、酒さなどとの鑑別が必要です。
頭部、頬部に紅斑落屑性の皮疹がみられ、時に脂漏性皮膚炎と紛らわしい場合もあります。
どちらかというと、出っ張った部分(額、頬、耳など)に出やすい傾向があります。
また、SLEと同様に光線過敏症がみられることがあり、顔面だけではなく、Vネックの部位に紅斑がみられることがありますが、検査ではかならずしも最小紅斑量(MED)の低下は認められないようです。
《手の症状》
Gottron徴候・・・手指関節部の背面にみられる紫紅色の角化性紅斑や丘疹のことで、皮膚筋炎に特徴的な皮疹ですが、全てにみられるわけではありません。肘や膝にも同様の角化性の皮疹がみられることがあり、広義のGottron徴候とよばれることもあります。逆に手指の内側に同様の皮疹がみられることがあり、逆Gottron徴候と呼ばれます。また拇指、示指、中指の物をつかむ部位に一致して硬くなった角化性の皮疹がみられることがあり、mechanic’s hand(機械工の手)とよばれます。これらはいずれも擦れるなどの機械的な刺激(Kobner現象)が誘因になっていると考えられます。
爪囲や指先の変化・・・爪囲には紅斑、毛細血管拡張、爪上皮の延長や出血点(Nail fold bleeding: NFB)も高頻度にみられます。NFBは疾患の活動性に伴うことが多いとされます。
ただし、これらは他の膠原病(SLEや強皮症)などでも認められますが皮膚筋炎ではより高頻度にみられるとのことです。
《その他の皮膚症状》
皮膚筋炎ではその他にも多彩な皮膚の症状がみられることが特徴ともいえます。
紅斑、紫斑、水疱、潰瘍、脂肪織炎、石灰沈着(特に小児例で多い)、網状皮斑、多形皮膚萎縮(ポイキロデルマ)などがみられることがあり、上記の特徴的な皮疹と合わせると診断的な価値があります。
体幹部ではび漫性な浮腫性紅斑をみることがあり、首から肩にかけてはショールサインとよばれます。
また、痒みによって引っ掻くことによって、線状の紅斑、掻把痕がみられ鞭打ち様皮膚炎とよばれます。このような皮疹は椎茸皮膚炎やブレオマイシンの薬疹でもみられます。
皮膚の潰瘍は臀部やGottron 部位にみられ、循環障害や血管炎をベースにしたものと考えられています。
経過が慢性のケースでは色素沈着や脱失、皮膚の萎縮、毛細血管拡張などを伴った紅斑面がみられることがあり、多形皮膚萎縮とよび、皮膚筋炎に特徴的に認められることがあります。
【筋症状】
四肢の近位筋(上腕、大腿部)の筋力低下がみられます。数週間から数か月かかって進行して嚥下障害や呼吸筋障害を伴うこともあります。
筋肉の自発痛や把握痛がみられることもあります。
筋力低下が弱い場合は患者本人もそれを自覚していないことがあり、「髪の手入れや洗濯物を干したりする時、腕が上げづらくないか」、「布団の上げ下ろしが難しくないか」、「トイレなどしゃがんだ状態からの立ち上がりが不自由ではないか」、「物が飲みづらくなったり、むせたりしないか」など具体的に問診することが必要です。
心筋では、シンチグラフィーで約半数に障害を認めるものの、症状のでる例は少ないとのことですが、出現すると致死的で十分注意が必要です。
食道嚥下障害、消化管の緊張、蠕動低下によるdistal dysphagiaも高頻度にみられます。
筋症状と皮膚症状の出現時期に関しては、約60%は同時に出現し、約30%は皮膚症状の方が筋症状より先に出現するそうです。中には明らかな筋症状のでない皮膚筋炎もあり、(clinically amyopathic dermatomyositis : CADM)、無筋炎型皮膚筋炎とよばれています。ただし、皮膚症状の発現から2年以上もたってから筋症状が出現したケースもあるそうです。
【その他の全身症状】
時に発熱があったり、関節痛があったり、レイノー症状があったりしますが、特異的ではありません。

注意を要するのは間質性肺炎です。筋炎症状が少ないのに、息切れ、空咳がでて急速に間質性肺炎が進行する場合があり、時に致死的となります。これはCADM症例、特に日本、中国などアジアからの報告が多く、欧米では少ないために人種差があると考えられています。
急速型の他に慢性の肺線維症の形をとるタイプもあります。間質性肺炎は全体の30~40%にみられます。

【悪性腫瘍】
合併率は20~30%程度とされますが、高齢者になるともっと高頻度となります。
本邦では胃癌が多いですが、肺癌、乳癌、卵巣癌、甲状腺癌などの合併も増加傾向とのことです。
【小児皮膚筋炎】
成人では多発性筋炎が多いですが、小児では皮膚筋炎が多いとされます。小児では皮膚症状が筋症状よりも先行して生じ易いとされます。またSLE様の顔面紅斑をとることが多く、石灰沈着も半数以上にみられます。Gottron徴候は比較的早期に高頻度に認められ、早期診断に重要です。一般的に成人型と比べると、予後は良いですが、なかには腸管などの重篤な血管炎を伴う予後の悪いBanker型というタイプもあるそうです。
小児皮膚筋炎は成人の型とはやや異なった症状を示し、病因も成人型とはやや異なっていると考えられています。

参考文献

皮膚科臨床アセット 7
皮膚科 膠原病診療のすべて
総編集◎古江増隆 専門編集◎佐藤伸一 中山書店 2011
55 皮膚筋炎の概念・疫学・病因・診断基準  室 慶直
56 皮膚筋炎の皮膚症状、皮膚病理組織所見  室 慶直
57 皮膚筋炎の全身症状と必要な検査、悪性腫瘍の合併 沢田泰之

顔ヘリオトロープ紅斑(ヘリオトロープ疹)

 

胸前胸部のVネック状の紅斑、一部ポイキロデルマ様でもあります.

ショールサインショールサイン

症例かつて、教室の皮膚筋炎の例を集計したもの.

高齢者での癌が目立っています.