動脈硬化・重症虚血肢(2)

脈管疾患では、心疾患と脳血管障害は比較的に一般にも認知されていますが、それに対応して末梢動脈疾患(peripheral arterial disease: PAD)はあまり一般には知れわたってはいません。本来はPADという言葉は慢性動脈閉塞症、急性動脈閉塞症、動脈瘤、血管炎、感染症なども含んだ概念とのことですが、普通は閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterans: ASO)の同義語として使われるとのことです。
高齢者が増え、生活パターンが欧米化したことが増加の背景にあるようです。糖尿病、高血圧、脂質異常、腎臓病などもそれに伴って増えてきました。
【PADの症状】
末梢動脈とは、心血管、脳血管を除くすべての血管を指しますが、一般的には四肢の動脈を示しています。PADは大よそASOとバージャー病(Thromboangiitis obliterans: TAO)を含むものとされます。TAOは近年喫煙者の減少、若年者の人口の減少などもあってかなり減少しているとのことです。
これらの症状、重症度分類にはFontaine分類やRutherford分類が用いられています。

Fontaine分類…………………………………Rutherford分類
度………..臨床所見…………………….度・群……臨床所見
I…………無症状…………………………..0・1……無症状
IIa……….軽度の跛行(100m以上)………….I・1……軽度の跛行
IIb……….中等度から重度の跛行…………..I・2……中等度の跛行
…………………..(100m未満)…………….I・3……重度の跛行
III………虚血性安静時疼痛……………….II・4…..虚血性安静時疼痛
IV……….潰瘍・壊疽………………………III・5….小さな組織欠損
………….同上……………………………III・6…大きな組織欠損

これらの分類は主に臨床症状で分類されますが、寝たきり老人など歩かないひとでは跛行の程度は分からない、糖尿病など神経症状もある人や認知症では安静時疼痛が基準にならないなどといった欠点があります。
Rutherford分類ではトレッドミルを使った付加試験やAP(足関節圧)などの客観的な理学的な所見も分類の基準に含んでいます。

重症虚血肢(critical limb ischemia: CLI)という言葉が下肢の血管病変ではよく使われますが、これはFontaine分類ではIII,IV度を指し、Rutherford分類ではII,III度を指し示す状態です。皮膚科で単に足に潰瘍ができた、壊疽になった、あるいは水虫、タコのついでで受診される場合もありますが、すでにこの状態でCLIの最重症という認識を持つことが医師も、患者さんも重要です。
CLI患者さんの生命予後は1年後で25%、CLIで下肢切断にいたった場合は周術期に10%が死亡、2年後には30%が死亡、そして5年生存率は40%を切り、肺癌の生命予後よりも悪いそうです。
ただ、このような患者さんでもなるべく早く専門医の診断を受けて適切な治療方法をとれば生命予後が改善されることがデータ上で示されています。近年この分野の診断方法、治療方法は格段に進歩を遂げていることもあり、一般のCLIに対する認識を高める必要があるといえます。

【潰瘍の特徴・鑑別診断】
下肢の潰瘍にはさまざまな原因がありますが、臨床的に大よその違いがあります。
静脈性の潰瘍と動脈性の潰瘍の特徴は下記の様です。

静脈性潰瘍………………………………………………………動脈性潰瘍
深部静脈血栓症・動静脈奇形…………………………………ASO,TAO,血管炎など
疼痛…………….軽度……………………………………………強度
好発部位……….下腿内側下1/3…………………………….….指尖部、下腿末端部
形状…………….不整型、浅い…………………………….……打ち抜き型、深い
肉芽組織……….良…………………………………………….………不良
周辺……常温から暖かい、色素沈着………………………..….冷たい、チアノーゼ
動脈の拍動…….蝕知……………………………………… ……蝕知不能
合併……………静脈瘤、浮腫……………………………………壊疽

・血管炎・・・多発性で疼痛が強く、紫斑、リベドがあり、壊死を伴った打ち抜き様の深い潰瘍をみることが多いです。各種自己抗体が陽性にでることもあり、仔細に触ると硬いしこりを触れることがあります。その部分を皮膚生検すると血管炎の病理所見を得ることが多いとされます。

・腫瘍、肉芽腫・・・潰瘍の周囲に結節などの盛り上がりがある場合は、ボーエン病、有棘細胞癌、リポイド類壊死症、ムチン沈着症など他の疾患を考える必要があります。

・膠原病、関節リウマチ、糖尿病などに伴う下腿潰瘍もみられますが、それぞれにみられる症状、検査所見から除外していきます。

・感染症・・・痛み、発赤、発熱などがあり、白血球増多、赤沈値亢進、CRP上昇などがあれば、蜂窩織炎、壊死性筋膜炎、ガス壊疽などの重症感染症も考えます。

・その他、外傷、熱傷、化学熱傷、自傷、褥瘡なども鑑別するべき疾患です。

下肢の血管が詰まってくると当然脈が触れにくくなります。足背動脈の蝕知は最初に重要ですが健常人でも約10%は触れにくいそうで、後脛骨動脈、膝窩動脈の蝕知も必要です。
足の変形、筋肉の萎縮がみられることもあり、足の冷感も重要な所見です。

PAD/CLIの診断方法は上記の臨床症状や理学所見の次の段階として、非侵襲的検査や超音波検査を始めとした画像検査などいろいろありますがABI(ankle brachial pressure index)(足関節上腕血圧比)が最も重要だとのことです。日本心・血管病予防会では「TAKE! ABI」、「足の血圧を測りましょう」という活動を行っているそうです。四肢自動血圧測定装置という器械があり、全国で1万台くらい出回っているそうです。

ABI=足関節血圧(mmHg) / 上腕血圧(mmHg)
ABIの正常値は0.9~1.3で0.9未満は下肢動脈の狭窄(閉塞)を1.3以上では動脈壁の石灰化が疑われます。
糖尿病や透析患者さんでは動脈硬化のために足関節血圧が200mmHg以上を示したり、バージャー病などで足関節より末梢の病変がある場合はABIでは重症度が判定できないこともあるそうです。その場合は皮膚組織灌流圧(skin perfusion pressure : SPP)を判断基準とするということです。

SPP
どの程度の圧で皮膚の微小循環が灌流しているかをみる検査法です。
安静、仰臥位で足にレーザーセンサーとカフを装着します。カフ圧を上げていって血流を止めた後、カフ圧を開放しながら皮膚灌流の戻るのを観察していきます。そして、皮膚灌流が急激に増加した時点でのカフ圧をSPPとするというものだそうです。
保存的な治療の目安はSPP 45 mmHg以上で、SPP 30 mmHg以下だと潰瘍の治癒は困難だとのことです。

tcpO2(Transcutaneous Oxygen Tension)経皮的酸素分圧
皮膚に44度に加温した電極を接着させ、反応性に充血をさせた状態での皮膚組織の酸素分圧を測定します。創傷治癒には40mmHg以上が必要とされています。

画像診断では、血管超音波は放射線被爆もなく造影剤による副作用もなく今後画像診断のなかで第一選択となりうる検査です。ただし、検査技師の技量によって精度に大きな差がでうる検査だそうです。各種検査の詳細は専門の解説書を見ていただくことにして、ここでは、項目のみをあげておきます。
*超音波検査
*マルチディテクターコンピュータ断層血管撮影(Multi-Detector Computed Tomography Angiography: MDCTA)
*磁気共鳴血管造影(Magnetic Resonance Angiography: MRA)
*血管造影
*単純X線撮影
*サーモグラフィー

参考文献

Visual Dermatology Vol.9 No.9 2010
下腿潰瘍・足趾壊疽  皮膚科医の関わり方 責任編集 沢田泰之

日本医師会雑誌 第142巻・第9号/平成25(2013)年12月
特集 末梢動脈・静脈・リンパ管の病気update