掌蹠膿疱症(3)病因

1)病巣感染
掌蹠膿疱症(Palmoplantar Pustulosis: PPP)の原因は明らかにされてはいませんが、扁桃炎や歯性病巣などの病巣感染が密接に関係していることが分かっています。
2)喫煙
喫煙者にこの疾患が多いことも分かっています。
3)金属アレルギー
金属、とりわけ歯科金属アレルギーもある程度の割合で陽性で、そういった例での関連性が分かっています。
4)自己免疫疾患
自己免疫性甲状腺疾患や、グルテン過敏性腸炎、2型糖尿病などの自己免疫性疾患を合併することがあり、特に欧米ではその割合が多く、疾患のバックグラウンドに自己免疫の異常が関与しているとされています。

個別にみていきます。

1) 病巣感染
欧米と比べると、日本人では扁桃炎や歯周炎などの病巣感染に伴って発症する割合が多いそうです。またその治療による有効率は扁桃炎が60%以上、歯性病巣が65~78%と高率です。この治療はPPP に伴う、骨関節炎(PAO)に対しても有効だそうです。
ただし、この両病巣ともに無症状であったり簡単な血液検査では診断がつかないなど診断が難しいとのことです。
歯性病巣はオルソパントモグラフィーによってX線上診断がつけられます。
扁桃炎では原因菌はA群溶連菌ではなくて、口腔常在菌であるαレンサ球菌に対する免疫寛容の破綻が原因と考えられています。学童期に扁桃炎を繰り返していたケースは扁摘の効果が高いそうです。
病巣感染に対する治療の効果は2,3か月でみられるものもありますが、長いものでは1~2年かけて徐々に軽快していくケースもあるそうです。
それ以上軽快しなければ別の要因を考えたほうがよいそうです。
扁摘については、耳鼻科と皮膚科にはやや温度差があるようです。当然のことながら耳鼻科では扁桃摘出術は身近な術式で、耳鼻科医が最初に修得する手術の一つで安全なものだそうです。手術時間は30分から1時間、入院期間は約1週間で、費用は扁摘が3600点で、入院合計は3割負担で概ね10万円程度だそうです。
2008年の高原らのアンケート調査では、PPPに対する有効な治療法について、耳鼻科では97%が扁摘をあげているのに対し、皮膚科ではステロイド外用薬を最も有効とし、扁摘は50%にとどまったそうです。
では、実際の有効率はどれくらいかというと、自然治癒やどれくらいの期間をみているかなど、客観的な評価は難しく、文献によって改善したものは60~90%と幅があります。
扁摘を行う目安として、扁桃誘発試験、扁桃打消試験があります。前者は1日で簡便ですが、後者は4~7日と煩雑です。誘発試験は扁桃に物理的刺激を与えて生じた生体反応から判定する方法で、扁桃マッサージ法、超音波誘発法、ヒアルロニダーゼ法などがあります。白血球や赤沈値の増加、体温、皮疹の変化などで判定するそうです。ただ的中率は7割程度で逆に健常人でも3割は陽性になるといいます。
従って、扁摘を決める決定的な試験はなく、症状の重い例、過去の扁桃炎や皮疹との関係扁桃肥大所見などを総合的に見極めて手術適応を判断するようです。
ただ、皮膚科医は扁摘についてはよく知らず、なんとなく危険と躊躇する傾向は否めず、もっと耳鼻科に相談する必要があるかもしれません。
 扁桃炎など病巣感染とPPPの発症の機序については完全には分かっていません。
ただ、PPPでは扁桃常在菌に対する免疫寛容機構が破綻し、常在菌に対して過剰な免疫応答をすると考えられています。その結果扁桃B細胞が活性化され、皮膚に共通高原のある熱ショック蛋白(HSP)などに対する抗体産生が誘導され、またT細胞も活性化され、cutaneous leukocyte antigen(CLA)を発現するT細胞が多数でき、皮膚に移行し、皮疹形成へつながると考えられています。(Visual Dermatology 高原 幹、 扁桃と掌蹠膿疱症(耳鼻科の立場から))

2) 喫煙
喫煙がPPPによくないのは、臨床的に以前から知られていました。しかし、その理由はよくわかっていません。2002年にスウェーデンのHagforsenはPPP患者の病変部組織において表皮内汗管および周囲の表皮細胞にもニコチン性アセチルコリン受容体(nAchR)タンパクの発現の増強を認めました。
(ちなみに日本とともにPPPの発症率の高いスウェーデンでは90%が女性でその95%が喫煙者だそうです。そして、スモーカーの発症リスクはそうでない人の74倍だそうです。)
また同時にPPP患者血清ではnAchR抗体の上昇が約半数に認められ、何らかの自己免疫反応が汗管およびその周辺に起こり、病気の発生につながっていると推測しています。
エックリン汗管は汗の排出を行いますが、一方神経内分泌器官でもあります。ニコチンは汗から排出され、コリン作動性の炎症惹起性の物質でもあります。従ってこれが、自然および獲得免疫に関与していることが強く疑われるとのことです。
汗管は外界からの刺激をガードする免疫器官としての役割も考えられます。そう考えるとPPPに幾多の自己免疫疾患が合併しているのも自己免疫の破綻を示唆している可能性もあるそうです。(Eva Hagforsen)

3) 金属アレルギー
PPPで歯科金属アレルギーの関与があるとされていますが、各施設での金属パッチテストの陽性率は大きな差があるといいます。しかも歯科金属除去のみでPPPが改善することは比較的に少なく、同時に歯性感染症、根幹治療、歯周病治療も必要です。
従って、単に金属パッチテストで陽性であるだけで、金属除去治療の指針にはなりません。陽性金属と使用している歯科金属との整合性などを歯科医師と相談しながら慎重な対応が必要でしょう。

4) 自己免疫疾患
日本の教本ではあまり強調されてはいませんが、Hagforsenによると、PPP患者では種々の自己免疫疾患を合併することがあるとのことです。
自己免疫性甲状腺疾患、セリアック病(グルテン不耐性腸症)、カルシウム代謝異常、2型糖尿病へのリスク、うつ病などです。
彼女は、PPPはエックリン汗管や内皮組織でのnAchR抗体を始めとする自己免疫反応による疾患と考えているようです。
日本ではあまり多くないようですが(特定のHLAタイピングに多い)、グルテン不耐症を伴ったPPPの患者さんでは、喫煙よりもグルテンフリーダイエットの方がより治療効果は重要だそうです。腸の病理組織検査では陰性でも、グリアジン、トランスグルタミナーゼに対する抗体が陽性の場合は有効だそうです。

(グルテンはお麩に含まれる小麦成分で、その他小麦、ライ麦、大麦などに含まれています。日本人では以前は摂取量は少ないものでした。しかし、食生活の欧米化、米食の減少などで、グルテン過敏症は年々増えてきているそうです。)

参考文献

掌蹠膿疱症の治療 あの手この手 責任編集 照井 正
Visual Dermatology Vol.11 No.10 2012