掌蹠膿胞症(2)症状

掌蹠膿胞症は、手のひら(掌)と足底(蹠)に無菌性の膿胞ができる疾患です。
目で見ればすぐに分かりますし、日常的にも時々みられる疾患なので典型的な症例の診断は簡単です。しかしながら似て非なる疾患(鑑別診断)は後で述べますように多くみられます。また疾患の概念が明確ではありません。特に本邦と欧米で乾癬との異同に対する考え方が異なっており、名称の混乱も見られます。そのことと、この疾患が増悪、寛解を繰り返すために治療効果の判定が難しいこともあり、疾患全体の解明が遅れている原因になっています。
掌蹠膿胞症はPPPと略記しますが、palmoplantar pustulosis, またはpustulosis palmalis et plantarisの日本語訳です。しかし欧米では長らく膿胞性乾癬の一亜型として考えられていました。従って名称も、同じPPPながら、palmoplantar pustular psoriasisやPalmoplantar psoriasisなどと表記されていることも多く、またPPPのうち10-20%に乾癬(psoriasis)が合併するとの記載もあります。
しかし、患者のHLAタイプを調べると、乾癬と掌蹠膿胞症は全く異なっているとのことです。現在は少なくとも日本ではこの両疾患は別個のものと考えられています。
【罹患率】日本とスウェーデンに多いとされています。
小児では少なく、成人に多く、しかも女性に多くみられます。
特徴的なのは喫煙者に多いことで、スウェーデンでは患者の90%が女性で、95%が喫煙者だといわれています。(Eva Hagforsen)
日本人では扁桃炎や歯周病などの病巣感染や、歯科金属アレルギーを伴う例が欧米などよりも多い傾向にあるようです。
【臨床症状】
手のひら、足底に2-4mm大の膿胞が生じます。膿胞性乾癬の膿胞との一番の違いは、掌蹠膿胞症の場合は、まず表皮内に単房性の水疱ができ、その後に膿胞になっていくのに対して、乾癬の場合は水疱はできずに、膿胞(Kogoj海綿状膿胞)を形成する点です。
膿胞は紅斑で取り囲まれ、乾燥していくと茶褐色の痂皮を作ります。膿胞の出現前に痒みがあり、後に痛みを生じます。重症例では足底の膿胞、痂皮、亀裂のために疼痛が強く歩行困難になる場合もあります。
中には角化が強いタイプもあり、経過中に一見掌蹠角化症のような足底全体が紅斑落屑と、強い角化、亀裂に覆われているケースもみられます。
一般的に左右対称的に出現しますが、片側のみの場合もあります。また炎症が爪周囲に及ぶと爪甲が変形し、爪甲下に膿胞を生じることもあります。この場合はHallopeau稽留性肢端皮膚炎(膿胞性乾癬の一亜型)との鑑別が必要になります。
掌蹠外にも皮疹ができることがあり、掌蹠外病変とよばれますが、臀部、四肢に乾癬様の紅斑落屑や膿胞ができますが、典型像ではないそうです。
掌蹠膿疱症は主に手足に限局した疾患ですが、患者さんの苦痛は意外と大きく、QOL(quality of life)を大きく損ねているようです。すなわち痛くて歩けない、人前で手を出せない、胸鎖関節痛などで腕が上がらないなどが原因で、広範囲に皮疹が拡がる乾癬などよりもQOLが低い場合もあるそうです。
経過は慢性で、寛解、増悪を繰り返しますが、平均3~7年くらいで軽快することが多いそうです。
【合併症】
◆骨関節症状
約10%にみられます。前胸部に最も多く、日本からの報告が最も早く、鎖骨骨髄炎、胸肋鎖骨間骨化症、掌蹠膿疱症性骨関節炎(Pustulotic arthro-osteitis: PAO)などとよばれています。
1987年には欧米から骨関節の炎症と無菌性の皮膚炎を来す疾患をまとめてSAPHO症候群という概念が提唱されました。
これは滑膜炎Synovitis ざ瘡Acne 膿疱Pustulosis 骨増殖症Hyperostosis 骨炎Osteitis の頭文字をとってつなげたものです。
PAOはSAPHO症候群の中に含まれることになります。3割強がPAOだそうです。
前胸部が最も多く発赤、腫脹、疼痛があり、運動制限をきたします。次いで仙腸関節、脊椎、下顎骨、恥骨などが多く四肢末梢関節が侵されることもあるそうです。
治療法は関節リウマチに準じますが生物学的製剤の効果は不定のようです。(この製剤によって逆に掌蹠膿疱症が生じることもあります。)
◆アナフィラクトイド紫斑、IgA腎症
頻度は多くはないようですが、時に掌蹠膿疱症の経過や悪化中に紫斑やIgA腎症を生じることがあります。掌蹠膿疱症の原因の一つには病巣感染(歯周病や扁桃炎など)が関与するといわれますが、同じように紫斑、IgA腎症にも病巣感染による免疫複合体か関与するといわれます。これら共通の基盤の上で、溶連菌やαレンサ球菌などに対して過剰な免疫反応をおこし皮膚や腎臓や骨などに炎症を起こすことが考えられています。
【鑑別診断】
掌蹠膿疱症とみた目が似ていて異なる疾患はかなりあります。
◆感染症
・掌蹠の疥癬・・・時には小水疱、小膿疱がみられる場合があります。無論ダーモスコピーなどで仔細にみて疥癬トンネル、疥癬虫がみつかれば区別はつきます。ちなみに掌蹠膿疱症でのダーモスコピーの像は水疱の中に膿疱がみられるのが特徴だそうです。
疥癬では、指間などに白っぽい線状の疥癬トンネル(0.5x5mm程度)を作ることが特徴です。仔細にみると人字型、船の水尾(みお)型に見え、水尾徴候と呼びます。また外陰部、臀部、腋窩、肘等には結節を作ります。それと手足の膿疱、水疱などでは疥癬虫を見つけることが可能ですが、体幹部の丘疹ではまずみつかりません。虫はダーモスコピーでは胴部は白く見えにくく、顎体部、前足部は黒くみえますので、三角黒点としてみえます。
・白癬症・・・いわゆる水虫のことです。足白癬には小水疱型(汗疱型)、趾間型、角質増殖型がありますが、小水疱型は水疱の他に膿疱を形成して、掌蹠膿疱症と似る場合があります。しかし水疱、膿疱蓋をハサミで取って顕微鏡でみれば水虫ならばほぼ確実に真菌をみつけることができます。
掌蹠膿疱症の経過中に水虫に感染している例をみることもあります。従って怪しいときには真菌の顕微鏡検査をすることが重要かと思います。
・汗疱の二次感染・・・時に汗疱に溶連菌などの細菌がついて膿疱化することがあります。しかし臨床上で掌蹠膿疱症のような典型的な単房性の膿疱をとるケースは少ないようですし、細菌培養などの検査をすれば区別できます。
◆汗疱
基本的には手汗をかきやすい、小水疱のみであるなどの症状によって区別できます。時に金属アレルギーを有していることがあります。
◆好酸球性膿疱性毛包炎
頻度は多くはない疾患ですが、一応手足の膿疱をみたら考えておくべき疾患です。
典型的には顔面、体幹、四肢などに痒みを伴う毛包一致性の丘疹や無菌性膿疱が環状、局面状にでき、中心部は色素沈着と軽い鱗屑を残して軽快する病変です。しかし、手足に初発することもあります。実は手足には毛包がないので、好酸球性膿疱性毛包炎という病名はやや不適切だという向きもありますが、この疾患概念は近年HIV感染症に伴ってみられるなど新たな拡大展開がみられています。
いずれにせよ、目で見るだけでは正確な鑑別はできず、血液中や組織中の好酸球の増加があることを確認することが必要です。特に掌蹠外皮疹があるものについては病理組織検査で確認することが重要になってきます。
◆急性汎発性膿疱性細菌疹(Acute generalized pustular bacterid : AGPB)
Pustular bacteridという概念は1930年代にAndrewsが提唱しました。1974年にはTanがAGPBとして報告し、膿疱はPPPのように手掌、足底から足背から四肢、体幹部までにも拡大すること、上気道感染が先行し、血清ASO値が上昇すること、病理組織学的にleukocytoclastic vasculitisを伴い、IgM,C3の沈着を伴うこと、一過性で再発しないことなどを特徴としました。
AGPBは急性一過性であることと、掌蹠外病変がPPPと異なり、膿疱のみであることなどが鑑別点になります。

掌蹠膿疱症と乾癬は別個の疾患ではありますが、掌蹠外病変がある場合にはその異同に苦慮することもあります。遺伝子的には疾患関連遺伝子座のHLAタイプは異なるものの、この両者は非常に近縁の疾患であり、乾癬と掌蹠膿疱症の家族例をみることもあるといいます。

【疾患のバックグラウンド】
自己免疫性の疾患と考えられており、自己免疫性甲状腺疾患、グルテン過敏性の腸炎などや2型糖尿病を伴いやすいともいわれています。

参考文献

Visual Dermatology Vol.11 No.10 2012
特集 掌蹠膿疱症の治療―あの手この手  責任編集 照井 正

掌蹠膿胞症2

掌蹠膿胞症1

掌蹠膿胞症3

疥癬水疱、膿胞はみえても疥癬です.

掌蹠膿胞症ではありません.

疥癬虫鏡検すると疥癬虫がみつかります.