食物アレルギーの経口免疫療法

食物アレルギーの経口免疫療法
これについて、誌上でのディベートがなされていました。積極的に行った方が良いという意見と、やめた方が良いという意見が披歴されました。アトピー性皮膚炎をはじめとする食物アレルギーの食事制限についての討論です。
専門家でも意見が分かれることを受け売りで書いても、読者が混乱するだけかもしれませんが、必ずしも180度意見が異なり、接点がないということでもありません。重要な意見、知見が述べられていましたので、ここにまとめてみたいと思います。
【是とする意見】
まず、経口免疫寛容の理論に則って、食べることによって食物アレルギーを抑制することを臨床応用されている神奈川県立こども医療センターアレルギー科の栗原和幸先生の考えについて。
100年以上前からモルモットやマウスでの動物実験で、トウモロコシや卵白などの食物アレルギー反応が原因食物の量、時期、回数を調整して食べることで軽減することが実証されてきました。
イスラエルとイギリスに移住したユダヤ人小児のピーナッツアレルギーの頻度を比較すると、イスラエルの方が有意に低い。生後9カ月までにピーナッツを与える頻度はイスラエルで69%、イギリス10%で、摂取量はイスラエルがはるかに多い。これは乳幼児の積極的なピーナッツの経口摂取が経口免疫を誘導し、後のピーナッツアレルギーを予防する事を示しています。
これとは別の疫学調査で、ピーナッツオイルを含むスキンケア用品の使用がピーナッツアレルギーの発症に強く関連するという結果も報告されています。
すなわち、皮膚からの食物の暴露はアレルギーを引き起こし、経口からの摂取は免疫寛容、耐性を獲得し、アレルギーを抑制するということになります。
免疫学的な説明についてもT細胞無反応状態(アナジー)や抑制性T細胞の存在など経口免疫寛容の機序が説明されています。
経皮感作と経口免疫寛容が食物アレルゲンに関して普遍的な現象であれば、食物アレルギーを予防するためには不必要な食物除去を避け、原因食物を少量ずつ食べ、皮疹を改善して皮膚バリア機能を良好に保つことが重要になります。栗本先生は2007年から重症食物アレルギーに対し、特異的経口耐性誘導(経口免疫療法)を開始して有望な結果を得ているということです。無論、この治療方法は誰でもがやって良いものではなく、専門医が厳格な指導のもとに行う研究的な治療法であることは強調すべきところです。
【非とする意見】
経口免疫療法(oral immunotherapy:OIT)に対しては、日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会は、「現時点においては、本法を専門医が体制の整った環境で研究的に行う段階の治療であると位置づけ、一般診療においてはいまだ行うべきでない」としています。
経口免疫療法に反対の立場の意見としては、
1. アナフィラキシーのリスクを排除できない
2. アレルゲン食物摂取中止により、過敏性が元に戻る可能性がある
3. 覆面型食物アレルギー発現が危惧される(但し、この事についての免疫学的な機序、理論づけはなされていない)
などがあります。
しかし、多くの専門医が考える食物アレルギーの基本的な診療、治療方針は「正しい診断に基づいた必要最小限の食物除去」であり、「少量ずつ自然に食べる」ことで多くの軽症者は治癒していくのが自然経過といえます。
但し、負荷陽性の患者さんに対しての食事指導、免疫療法は結論がでていないという事でしょう。小児専門医と栄養士の苦労するところとなります。
OITは現時点で確立した治療法とはいえず、いまだに研究段階にあるといえます。しかし、栗原先生のように専門的な立場での臨床研究が成果をあげれば、我々実地医家にも患者さんにも非常に心強いツールとなると思われました。

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