静脈瘤 治療 (I)

下肢静脈瘤やうっ滞性潰瘍、深部静脈血栓症の治療において、日常的な生活上の注意点は長時間の立位が最大の悪化因子であることを認識することです。また下記の圧迫療法は重要ですが、一部分のサポーター、きつい靴下などの圧迫は逆に悪化させるということを知っておくことも重要です。またうっ滞性皮膚炎を放置したり、掻き傷などの小さな傷を放置したりして潰瘍を作るとこれも悪化因子になります。
これらを踏まえた上での最も重要な保存的治療法は圧迫療法です。
静脈性の循環障害やリンパ浮腫などに必須な治療方法ですが、動脈性のものなど、下肢末梢動脈狭窄がある場合は禁忌となりますので、ここは重要な分かれ目になってきます。
ABI(下肢圧/上肢圧の比)が0.8未満の場合は圧迫療法は下肢の血流を途絶させる危険性があるために行わないようにするとされています。

症状が強くなれば、手術療法になりますが、その適応については都立墨東病院皮膚科の沢田泰之先生は次のように述べています。
「当院ではClinical分類(CEAP分類)4,5,6を1つの手術適応としている。また、血管超音波による重症度判定では大伏在静脈機能不全および小伏在静脈機能不全で直径8mm以上、ミルキングによる最大逆流速度30cm/secを重症とし、手術適応としている.」
「手術適応に至らない軽症の患者さんは圧迫療法で様子をみるが、うっ滞性皮膚炎のある患者さんでは1年おきに経過を観察して、手術時期を観察する.」
(手術療法、硬化療法、レーザー療法などについては次回にまとめてみたいと思います。)

【圧迫療法】
エラスコットなどの弾性包帯、弾力ストッキング、サポートストッキングなどがあります。朝の起床時から就寝時までこれらで圧迫を続け、就寝時は座布団などを下腿の下に敷いて、下腿を約10cm挙上するようにします。圧迫療法は手術療法を行った際でも術後2~3ヶ月は継続することが重要です。
圧迫療法の作用機序は、圧迫することによって下肢の表在静脈が圧排されて、静脈血の逆流が物理的に抑制されて、下肢の静脈高血圧が改善されるからとされています。

弾性包帯は圧迫力、範囲が調節でき、比較的安価なので便利ですが、巻き方によってはずれ易くほどけ易い欠点があります。内果上部から巻き始め、引っ張りながら足背部も2回巻いて包帯の幅が半分重なるように巻き上げていきます。小伏在静脈瘤では4インチ幅のものを膝まで、大伏在静脈瘤では6インチ幅の包帯を大腿まで巻き上げます。
弾性ストッキングはパンスト型、ハイソックス型などあり、サイズ、圧迫圧も強・中・弱があるそうですが、病状によって圧迫圧を変える必要性があるそうですので、弾性包帯共々静脈瘤の専門家の指導に従って使用することが必要でしょう。
弾性ストッキングはきつくて、適切なサイズであれば簡単に穿けるものではありません。簡単に穿ける場合は圧迫が足りないものであることが多いです。そのためにイージースライドなどの着用を手助けする補助器具もあります。また高齢などで握力が足りない場合は引っ張り上げる補助として台所用のゴム手袋を使えばよいそうです。それでも穿きにくい場合は衣料品として販売されているサポートタイプのストッキングの2重穿きでもよいそうです。これらが難しいときでもハイソックス型の膝までのストッキングを継続するのは途中で上記のタイプを止めてしまうよりもずっと有用だそうです。

足関節部での圧迫圧(単位 :mmHg)
20未満   DVT予防
20~30   軽度静脈瘤
30~40   下肢静脈瘤術後
40~50   下腿潰瘍を伴う下肢静脈瘤、DVT後遺症、リンパ浮腫
50以上   高度リンパ浮腫

日本皮膚科学会雑誌に弾性包帯の巻き方の例示写真がありましたので拝借して載せてみます。
弾性包帯