雀卵斑(そばかす)

英語ではephelides(ギリシャ語由来)あるいはfrecklesと呼ばれます。色白の白人に特徴的で英語の教本(Rook)には下記のような説明があります。
 雀卵斑は恐らく常染色体優性遺伝によるもので、赤毛またはブロンドで青い目(または緑色の目)をしたケルト人(スコットランド系、アイリッシュ系、ウエールズ系)の人々にみられる。これらの人々はメラノサイト刺激ホルモン受容体(melanocyte-stimulating hormone receptor)であるメラノコルチン-1受容体(melanocortin-1 receptor)を他の人々よりも多く持っている。それが関与しているらしい。
 症状は、2-4mm大の淡褐色の斑で5歳頃から露光部に現れる。顔に多いけれども上背部、腕や手の背部にも出現する。夏季に数、大きさ、色調が増強するが、冬季にはいずれも減少または消退する。美容的な観点以外は全く問題はない。
 美容的に問題にする人もあるが、(民族のアイデンティティを示すもの、あるいは若さを示すものとして)好まれる場合もある。
ちなみにこれらの人はFitzpatrickのskin type I-IIの白人が該当します。
Fitzpatrick__  Sun sensitivity_______________ Pigmentary response
Skin type I__Very sensitive, always burn easily_____Little or no tan
Skin type II__Very sensitive, always burn________Minimal tan
Skin type III__Sensitive, burn moderately________Tan gradually (light brown)
Skin type IV__Moderately sensitive, burn minimally____Tan easily (brown)
Skin type V__Minimally sensitive, rarely burn_______Tan darkly (dark brown)
Skin type VI__Insensitive, never burn__________Deeply pigmented (black)

 病理組織学的には、基底層の色素細胞の数は全く正常で他と変わりなし、しかし、その部分の色素細胞は長く、こん棒状に拡大してより色の濃い人々のようになっている。

以上のような記述をみると、我々日本人では該当するケースがあまりないということになります。日本人では色白の人にもみられる、との記述のある教本もありますが、この分野での専門家である渡辺晋一先生は次のように述べています。
「Rookの教科書に記載されているような雀卵斑はわが国ではほとんどなく、世間一般では後天的に生じた色素斑で、大型のものはシミ、小型のものはそばかすと呼んでいるようである.・・・わが国でみられる雀卵斑には主に3種類あり、1つは小型の老人性色素斑が多発したもの、あるいは小型の色素性母斑(ほくろ)が多発したものであり、残りはsymmetrical type of nevus Ota (いわゆるパラパラ型の太田母斑)であった.」
 
すなわち欧米でいう雀卵斑を厳密にとらえると、日本ではほとんど該当者がいないことになります。ただ欧米でもfrecklesを2つにわけて、simple frecklesとsunburn frecklesとする考え方があります。前者は本来のものですが、後者は日焼けのあとに上背などに生じる色素斑で、より大型で辺縁がギザギザし、より色調が濃いということです。これは光線性花弁状色素斑、solar lentigo, lentigo simplexと同一概念となり、すなわち小斑型の老人性色素斑と同じということになります。従って別のいいかたをするならば日本ではsimple frecklesはほとんどみられず、sunburn frecklesがほとんどということになろうかと思います。

先に書きましたように本来の雀卵斑は全く医学的には問題のないものです。ただ、それらを有する人は紫外線感受性が非常に高く皮膚癌発生予備軍といっても良い位な危険因子を持っている証左にはなるかもしれません。これらの皮膚が紫外線を防御すべくそばかすを作ってはかない抵抗をしているともいえるかもしれません。

もし、日本人で子供の頃からそばかすがみられた場合は雀卵斑ではなくて、むしろその他の疾患を考え除外する必要があります。数は少ないですが見逃すと困る疾患が多いです。
遺伝性光線過敏性疾患の一群と遺伝性色素異常症の一群が主になります。
色素性乾皮症、ポルフィリン症、神経線維腫症I型(レックリングハウゼン病)、Peutz-Jeghers症候群、LEOPARD症候群(遺伝的に黒子が多発する、他に種々の異常あり)、遺伝性対側性色素異常症などなど数多くあります。
 その中で間違うと大変なことになるのが色素性乾皮症(Xeroderma Pigmentosum: XP)です。ヒトは紫外線や電離放射線の傷を修復する能力を持っていますが、その中で紫外線によるDNA障害の修復能を遺伝的に欠損している疾患の代表がXPです。XP患者では幼少時から露光部にそばかす様のシミができ、そこに皮膚癌ができてきます。重症度、相補性によってA~G, variant群に分けられています。最重症のA群では10歳くらいでもう皮膚癌が生じます。逆に軽症型ではそばかすだけで診断がつかず中年以降になって皮膚癌が多発してくるケースもあります。
普通のそばかすとの違いはその不規則、大小の混在と皮膚の萎縮、乾燥、毛細血管拡張などの光老化現象を伴ってくる点です。(XPについては機会があれば詳しくまとめてみたいと思っていますが。)

雀卵斑(そばかす)は一見なんでもない単一の病態のように思われがちですが、上に書いたように様々な病気を含んでいる可能性があります。
 最も大切なことはこれらをしっかりと見極める目でしょう。簡単なようで皮膚科専門医もうっかりすると誤診しかねない病変といえます。

治療については、本来の雀卵斑は生理的なものなので、遮光のほかは特別な治療は不要です。特に欧米ではそれをどう考えるかによるとのことです。(むしろ好ましいと考える人々もあるとのことです。)
ファンデーション、ビタミン剤、美白剤、ケミカルピーリングなども使われるようです。

渡辺らの報告によると本邦の“雀卵斑“と呼ばれるものはほとんどが実は小斑型老人性色素斑、小型の色素性母斑(ほくろ)、パラパラ型太田母斑よりなるのでそれぞれに適した治療を行えばよいとのことでした。
治療はそれぞれの項目に書きましたので、省略します。
渡辺先生の治療コメント
「雀卵斑にIPLが有効だったという報告もあるが、それは小型の老人性色素斑を雀卵斑と誤診しているものと考えらえる.少なくとも、パラパラ型の太田母斑にはIPLは無効で、唯一の治療法はQスイッチレーザー治療である.」

参考文献

皮膚レーザー治療プロフェッショナル
渡辺晋一/岩崎泰政/葛西健一郎
2 色素沈着症の治療の実際
  k 雀卵斑             渡辺晋一 p168-9

皮膚科臨床アセット 11 シミと白斑 最新診療ガイド
総編集◎古江増隆 専門編集◎市橋正光    中山書店 2011 東京
15. 雀卵斑の病態・診断・鑑別診断    吉澤順子、鈴木民夫 p81-83
27. 色素性乾皮症の病態・診断・鑑別診断  錦織千佳子 p141-147

Rook`s Textbook of Dermatology 8th edition
Edited by Tony Burns, Stephen Breathnach, Neil Cox, Christopher Griffiths
Vol 3 Wiley-Blackwell 2010
58 Disorders of Skin Colour A.V.Anstey