性器ヘルペス感染症

某外資系製薬会社主催のセミナーに参加しました。抗ウイルス剤を世界で最初に開発した会社です。まあ、会社の販売促進のプロモーションの意味合いもかなりあるでしょうが、実のあるセミナーでした。この抗ウイルス剤はアシクロビルといって、単純ヘルペス、帯状疱疹に有効ですが、この開発者はノーベル賞を貰いました、との説明があり、これは知らなかったので一寸調べてみたらガートルード・B・エリオンという女性生化学者がその人であることがわかりました。これが凄い。1918年ユダヤ人移民の子としてニューヨークに生まれる。当時は女性ということで大学院での研究者の道は閉ざされ、高校教師として働く。後にバローズ・ウエルカム社に勤務する(これが後に社名を変え、今回のセミナーの会社となります)。彼女は独力で(ジョージ・H・ヒッチングス博士の研究助手として入社し、ノーベル賞も3人で受賞しているので必ずしも独力ではないかもしれませんが)それまでのトライアンドエラーの方法ではなく、人間の細胞と病原体の違いを利用して、人間の細胞を傷つけずに特定の病原体を殺すか繁殖を阻害する薬を設計しました。81歳の生涯で6種の薬剤を開発した、とあります。これが、素晴らしい、というか信じられない思いです。ロイケリン(白血病治療薬)、イムラン(免疫抑制剤)、ザイロリック(痛風治療薬)、マラリア治療薬、トリメトプリム(細菌感染症治療薬)、そして今回のアシクロビルです。さらに、HIV治療薬のジドブシンの開発にも寄与したとのことです。これらの1つでも第一級の薬です。ひょっとするとアインシュタインにも匹敵するような頭脳の持ち主だったのかもしれません。それでいて、生涯PhD(理学博士号?)を取らなかったということです。博士号など超越していたということでしょう。あるいは女性差別へのプロテストだったのでしょうか。1988年にノーベル生理学・医学賞を受賞しますが、感染症に対する薬剤としては1939年のサルファ剤、1945年のペニシリン、1952年のストレプトマイシンに次ぐ実に37年振りの快挙だったそうです。しかも人類初の抗ウイルス剤です。
 だいぶ横道に逸れてしまいました。当日の講演で気になったもの、性器ヘルペスについて、一寸述べます。これは先日STI研究会のブログで一寸触れましたが性感染症の一つです。クラミジアや淋病と異なり外性器(皮膚)に発疹がでますので皮膚科で取り扱います。
 講演でのお役立ち情報をいくつか。
*外陰部に水疱・潰瘍を生じますが、似たような症状を呈するのは梅毒、帯状疱疹、固定薬疹、ベーチェット病、湿疹かぶれなどがあります。
*現在はタイプⅠ、Ⅱ型の判定は蛍光抗体法の外注になりますが、某会社がイムノクロマト法による試薬を開発中とのことで、近々開業医外来でも短時間でヘルペスのタイプ別診断が確実にできるようになるのが期待できそうです。
*年6回以上再発する性器ヘルペスには再発抑制療法が適用になります。すなわちバラシクロビル1錠(500mg)を毎日1年間内服することによって再発を防ぎます。
*潜伏ウイルスの量が多い程、再発頻度も多くなることが分かっています。数年間再発抑制療法を行うことで神経節内のウイルス量も減少し、再発頻度も減少することがわかっています。
*初感染時に十分量、十分な期間、しかも早期に治療を始めることで、潜伏ウイルスの量を減らせ、再発の可能性を減らすことができます。
*再発リスクはコンドームを使用すること、パートナーにヘルペスを告知することとほぼ同程度のリスク回避効果があるとのことです。
*性器ヘルペスでは、パートナーへの水平感染のみならず、子供への垂直感染のリスクがあります。出産時に産道からヘルペスウイルスの感染を受けると新生児ヘルペスを発症することがあります。
*再発抑制療法によっても潜伏ウイルスの排除は困難です。また無症候期に感染するケースもあります。再発抑制療法をいつから始め、いつまで続けるか、という点については明確なコンセンサスはまだないとのことです。これからの研究・症例検討が待たれるところです。

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