太田母斑

顔面の主に三叉神経の第1枝、2枝支配領域に生じる褐色から青色の色素斑をいいます。
日本人を始めアジア人に多く、1939年に太田正雄が、眼・上顎部褐青色母斑(naevus fuscocaeruleus ophthalmomaxillaris)として報告されたために太田母斑とよばれます。しかし、1861年にはHulkeが眼球と顔面の皮膚に生じた色素病変を初めに報告し、1916年にはPuseyが同様な色素斑の中国人留学生の患者の報告をしているそうです。わずかながら黒人、白人にもみられるとのことです。(渡辺による)
しかし、現在では国際的にも太田母斑という名称が広く定着しています。太田母斑は真の母斑ではなく真皮メラノサイトの増加を主とした色素増加症である(渡辺による)という意見もありますが、母斑の定義は難しく明確なものはありません。
「色調ないし形の異常を示す皮膚または粘膜の奇形」(Unna)や「遺伝子の突然変異で生じる、すなわち遺伝子モザイクによる皮膚または粘膜の病変で、増殖傾向がほとんどないもの」(Happle)などいろいろあります。「先人達が母斑と呼んできた物が母斑である」(Jadassohn)との説もあります。
先人達があまりに多様な病態に母斑の名をつけてきたために、母斑と呼ばれているものすべてを的確に定義することは難しい、とのことです。(この項、三橋による)

【臨床症状】
色調は黒褐色、青色、灰色などと様々ですが、基本的には灰青色のベースの上に褐色調の色が混じっています。これは真皮のメラニン色素の深さが様々であることによります。黒は角層内のメラニンを、こげ茶は表皮内のメラニンを、淡茶は基底層のメラニンを、灰色は真皮乳頭層のメラニンを、青色は真皮内のメラニンを表しています。
色素斑はび漫性のものが70%、そばかす様の点状のものが30%の割合とのことです。
時には、眼球結膜、強膜に青色の色素斑(眼球メラノーシス)がみられます。また口蓋メラノーシスをみることもあります。(渡辺による)
太田母斑はその範囲、重症度によってⅣ型に分類されています。
Ⅰ 軽度型:a.眼窩型・・・眼瞼部にパンダのように色素がみられる
b.頬骨型・・・下眼瞼部に三日月のように色素がみられる
c.前額型・・・眉毛の上に三日月のように色素がみられる
d.鼻翼型・・・小鼻に、鼻翼に色素がみられる
Ⅱ 中等度型
隻眼のアイマスク部位に色素がみられるような型
Ⅲ 高度型
顔面の片側、額から眼瞼、頬部、ときには側頭部にまで至る部位に色素がみられる型
Ⅳ 両側型
a. 対称型・・・・後天性真皮メラノサイトーシス(ADM)
対称性真皮メラノサイトーシス(SDM)
b. 非対称型

【発症年齢】
生後数か月以内というのがほとんどだそうですが、10歳以降、成人での発症もあるようです。思春期までに色調は濃くなり、拡大傾向にあるとのことです。
【病理組織】
真皮内のメラノサイトが浅層から深層までのさまざまな深さにみられます。膠原繊維束に沿って散在性にみられるために、その構築を乱すことはないとのことです。
メラノサイトは発生の過程で、胎生期に神経管から皮膚に移行して表皮の基底層に定着するのですが、この定着過程に障害があると表皮まで辿り着けずに真皮メラノサイトとして残存し、このような病態を引き起こすようです。
【治療】
Qスイッチレーザーによる治療がゴールデン・スタンダードです。真皮メラノサイトーシスの項目で書きましたので省略します。ADM/SDMと比べると色素量が多く、真皮深部まで及ぶことから回数は多く必要です。ただし、治療間隔を3-4か月以上開けないと、治療効果が悪かったり、後で色素脱失などの後遺症を残す恐れがあるとのことです。治療効果は下床に骨のあるこめかみ部が最も良く、そうでない眼瞼部が最も治りにくいそうです。
治療に際しては、特に眼瞼部では痛みが強いために、外用だけでは不十分で局所麻酔薬の注射も行うことがあります。それで、小児の場合は全身麻酔をせざるを得ないこともあるそうです。またレーザー光から眼を保護するために特別なコンタクトレンズを装着します。
(渡辺による)
太田母斑は顔面にできたものをいうのですが、同様な色素斑は肩甲部にも生じます。これを伊藤母斑と呼びます。頻度は太田母斑の1/20程度だそうです。
【鑑別診断】
対称性真皮メラノサイトーシス(SDM):
遅発性に発症する、真皮の浅い部分に色素があるために色調がより褐色で濃淡がなく、青色調などの混在はない、加齢によって色調が濃くなるなどが太田母斑との違いだそうです。頻度は太田母斑の10倍程度とかなり多く圧倒的に女性に多いそうです。
しかしながら、両側性の太田母斑とSDMのきっちりした線引き、境界はあるのでしょうか。個人的にはいま一つ分からない感じがします。
蒙古斑:
Ⅰ型 軽症型と異所性蒙古斑の鑑別が必要です。蒙古斑は単一な青色から灰青色を呈すること、徐々に消退していくことで区別がつくとのことです。しかしこれも異所性の蒙古斑では消失しにくく、成人まで残る例もあるとのことです。色調もクリアカットに分けられない場合もあるようです。こうなるとどこで両者の線引きをするのだろうと思ってしまいます。
太田母斑も典型的な例は問題ないとしても、非定型的なもの、周辺部分のものはどのように違うのか教本を読んでいても小生には良く理解できませんでした。

真皮のメラノサイトーシスはなかなか奥が深そうです。人種、個人の多様性があるようにこの分野の色素異常にも多様性があって複雑なのは仕方ないのでしょう。
まとめたつもりが纏まらない書き方になってしまったきらいがあります。請うご容赦。

参考文献
皮膚科臨床アセット 11 シミと白斑 最新診療ガイド
総編集◎古江増隆  専門編集◎市橋正光   中山書店  2011 東京
各論 16. 太田母斑の病態・診断       溝口昌子・村上富美子 p84

皮膚科臨床アセット 15 母斑と母斑症アップグレード
総編集◎古江増隆  専門編集◎金田真理   中山書店  2011 東京
各論 18.太田母斑                  村上富美子 p93
          19.伊藤母斑                  村上富美子 p97

皮膚レーザー治療プロフェッショナル
プロから学ぶ正しい知識と手技
渡辺晋一/岩崎泰政/葛西健一郎    南江堂 2013  東京
B.色素沈着症    渡辺晋一

皮膚科診療カラーアトラス体系3 色調異常 他
編集/鈴木啓之・神崎 保
太田母斑                            渡辺晋一 p46
太田母斑のレーザー療法             渡辺晋一 p47

Shinichi Watanabe and Hisashi Takahashi. Treatment of Nevus of Ota with the Q-Switched Ruby Laser. N Engl J Med 1994,331:1745-1750.

 

太田母斑.

太田母斑2

melanosis眼球メラノーシス